本研究は、半無限領域や管状領域などの測度無限大の境界を持つ領域における波動散乱問題を対象とし、これを高効率・高精度に解くための数値解法としての境界要素法の可能性を追求するものである。 研究開始当初においては、半無限境界と散乱体境界の相互作用を散乱行列(S行列)を用いて表現することを想定しており、実際に研究初年度には2次元半空間におけるヘルムホルツ方程式の境界値問題に対するS行列境界要素法を実装した。種々のテストを通して、開発した解法の効率・精度ともに十分であること、インピーダンス境界条件を含む散乱問題へも適用可能であることなどが結論された。しかし、その後の文献調査・研究により、ここで開発した手法がいわゆるゾンマーフェルト積分表現を用いた解法と本質的に等価であることが分かり、さらには例えば半無限境界と散乱体が近くに位置する場合に計算効率が悪化すること、これを改善するために従来型の層ポテンシャルとゾンマーフェルト積分を組み合わせた数値解法(ハイブリッド境界積分法)が提案されていることが明らかとなった。そこで、ハイブリッド境界積分法の高度化を試みる方向に研究計画を修正した。結果として、既存のハイブリッド境界積分法に内在していた見かけの固有値問題を解決するとともに、半無限境界が局所的な摂動を含む場合(いわゆる cavity scatering)にも適用可能であるような新しい境界要素法を開発することができた。これらの成果は国内会議(計算工学講演会)で発表予定であり、さらには国際誌への投稿準備中である。 当初の計画とは異なる方向に研究が進んだが、応用上重要な cavity scattering 解析に手が届いたという意味でもグリーン関数を用いない境界要素法を構築するという研究の最終目的は一定程度達成することができ、挑戦的研究(萌芽)として十分な成果を挙げることができたと考えている。
|