遠隔マルチタスクのための多重身体認知型代理身体システムの研究では,遠隔で実施するマルチタスクのためのロボットとその認知について実験的に評価した.自己の移動と操作を再現する代理身体で遠隔に参加しシミュレーションで意図する操作を予行し,後にそれを自律実行する代理身体の感覚を身体的な追体験で知覚し不備の発見と修正を行う新しい遠隔操作手法について検討した.遠隔操作の体系化を代理身体の自律性と時間シフトの遠隔体験の統合という観点で行い,複数タスクの並行的な実行を実現する設計について探索した. 本年までの研究成果として,代理身体のロボットのハードウェアの構築を完了することができ,複数台ロボットの視野映像を体験者に分割/切替え提示と重畳提示を実装した.これによって,遠隔操作で任意の方向にロボット身体を移動しながら視野を共有することがことが可能となり,複数のロボットの認知について評価できた.2つの視野を切替える場合,2つの分身としてロボットが認知される傾向,重畳提示の場合は2つの遠隔空間が身体の周りに融合しているように認知される傾向が強いことが示された.シミュレーションにおいて2箇所の身体の視野を切替え表示する場合と小ウィンドウ表示する場合は,2箇所を重畳表示する場合と異なり,2つの空間の分身を移動している感覚となる一方で,重畳提示では2つの空間に同時に存在する感覚が優勢となった.遠隔操作のロボット身体の場合,視野の空間への定位感は強く2箇所の分身が存在する感覚は,シミュレーションの場合より強く観測された.他方,空間を分割して提示する場合,特定方向の視野の継続性は有効であるが臨場感が制限され情報取得に問題が生ずる可能性がある.記憶の維持はタスクの要求に合致させることが望ましいとすると,没入による定位の品質か分割視野による継続的注意かについて重点配分を考慮する必要性が認められた.
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