本研究の目的は、自然環境中で作動可能な細胞サイズ分子ロボットのプロトタイプを開発することである。これまで分子ロボットの研究では生体内や単純バッファー中での検討しか行われていないが、今後、実際にロボットとしての実用的な動作を考えると、自然環境中や大気のような脱水環境での使用が望まれると考えた。本課題では海水中と大気中で作動するリポソーム型およびシャボン玉型分子ロボットの開発を試みた。 均一サイズのリポソームを作製するため、PDMSを用いたマイクロ流路、およびガラスキャピラリ流を用いた検討を行った。ガラスキャピラリで作製したリポソームはサイズが大きく(>50 um)その経時安定性に課題があった。一方でPDMS流路で作製したものは、細胞サイズのものが作製可能で、界面張力の比率を最適化することで安定なリポソームの作製に成功した。現在海水中での安定性を評価している(査読付き国際会議採択)。また同時にリポソームの安定性や膜の変形を評価する研究も同時に行った(Micromachines 2023)。 大気中で作動するシャボン玉型分子ロボットに関しても、ガラスキャピラリ流路を用い極小サイズのシャボン玉の作製を試みた。界面活性剤や溶液粘度を最適化し、流路の内・外を空気とし、その間にシャボン液を入れた流路により比較的均一サイズのシャボン玉の作製に成功した(査読付き国際会議採択)。このシャボン玉の液膜部分に蛍光分子を入れ、蛍光発光可能であることを確認できた。これにより今後DNAコンピュータを搭載し計算結果を光で検出することが可能になる。現在作製しているシャボン玉は、そのサイズが~1 mm程度なので、今後マイクロサイズのシャボン玉の作製を目指し、現在流体力学シミュレーションを実施しているところである。
|