研究課題/領域番号 |
21K19805
|
研究機関 | 大阪芸術大学 |
研究代表者 |
中川 志信 大阪芸術大学, 芸術学部, 教授 (00368557)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | ロボット / 能 / 省略 / 想像 / ラジオドラマ / 聴覚情報 / 彫刻 |
研究実績の概要 |
研究目的:能における省略芸術・想像芸術のメカニズムを先端ロボットのUXデザインに活かす基礎研究に対して、概ねの理論を実験から明らかにすることができた。具体的には、能における省略芸術・想像芸術のメカニズムは、究極の省略演技である居グセに集約していた。その居グセを分析した結果、通常の対話や映像ドラマの音質と異なる異質な音情報が潜在していた。その異質な音情報とは、倍音多い感情豊かな音声、効果音、音楽と、人を引き込む説明台詞、独白、ナレーションを多用する物語であった。これらはアニメやラジオドラマにも多用されていた。 この居グセのメカニズムと同機能のラジオドラマをCGロボットに適応した2回の実験から、省略した動きのロボットでも感情豊かな好印象を与える結果が得られた。また誇張したロボットの動きにラジオドラマを適応したCGロボットも、より高く好印象に感じる結果が得られた。さらにラジオドラマの音声の周波数解析から、倍音が増えていることも明らかになった。 これらから、倍音多い感情豊かな音声、効果音、音楽と、人を引き込む説明台詞、独白、ナレーションを多用する物語をロボットに適応することで人の印象が高くなることが明らかになった。 次に能の演技では、手先を前に突き出すことでホトトギスが鳴いている事を表現するなど、一般にはわからない物真似の極限を象徴化した多様な演技の法則があった。これと同じロボットにおける省略演技の型を、ロボットの形体や音と物語との関係性から探求する。また研究成果のラジオドラマ適応で省略想像を達成したロボットも、音が動的である。音も動きも静的で生命感があり感情豊かに感じるロボットが求められる。これら2つの課題解決に向けて、彫刻的に造形を削ぎ落としたCGロボットに先の実験と同じラジオドラマの音を適応した実験を行い、静的なロボットにおける省略芸術・想像芸術のメカニズムを明らかにしていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年度の研究では、能舞台における究極の省略演技居グセを分析し、感情豊かで異質な音情報で視覚情報を補うことを発見した。その成分要素がラジオドラマと同じ音機能であったため、予備実験を行いロボットにおける省略想像芸術の可能性を明らかにした。 2022年度は本実験に、ラジオドラマで最高峰であるNHKの技術協力を得ることができた。日常対話や映像ドラマと能やラジオドラマの異なる点は、聴覚情報に人を引き込む物語と音を加えている点になる。具体的に物語では説明台詞、独白、ナレーションを多用し、音では倍音の多い音声、効果音、音楽を多用することであった。既往研究から能に加えアニメでも倍音多い音声を多用していた。 この映像ドラマ(映像音)とラジオドラマの音(ラジオ音)を、同じシナリオで、誇張表現ができるCGロボット(誇張ロボ)と省略表現しかできないCGロボット(省略ロボ)に適応して印象評価を取る実験を行った。CGロボットは実機実験を見据えて先行開発した文楽人形ロボットを採用した。結果は予備実験とほぼ同じ、①ラジオ音×誇張ロボ、②ラジオ音×省略ロボ、②映像音×誇張ロボ、④映像音×省略ロボであった。 2つの実験を通して、能の省略想像芸術の異質な聴覚情報で視覚情報を補う定式をロボットに適応しても同じ効果があることが明らかになった。また、本実験で制作したラジオ音と映像音の声優音声の周波数グラフを比較した結果、ラジオ音の倍音が増えていた。声優のインタビューでも多くの情報がラジオ音で伝わるよう意図して変えていると回答があった。これらから能とラジオ音の音声は同じ性質であることも明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
現在、先行研究で開発した実機の文楽人形ロボット2号機で検証実験を行おうとしているが、ロボットへの動作プログラミングなど人的及び予算的な課題から進んでいない。ロボット実機での検証実験は、新たに科研費を申請して予算をつけて実験者への報酬を確保してからになると考えている。 また本実験から、現実に共生するロボットには、これらの実験で採用したラジオドラマの音より静的な音でも、生命感があり感情豊かなロボットを求めたい潜在ニーズがある。さらに静的なロボット本体の形体や、人をサポートするタスクを実行する作業に必要な腕とその動き方などのあり方も、従来型と異なる検討を進める必要がある。能の演技では、手先を前に突き出すことでホトトギスが鳴いている事を表現するなど、一般にはわからない物真似の極限を象徴化した多様な演技の法則があった。このような形体と動きにおけるロボット独自の省略想像芸術の法則を明らかにしていかねばならない 2023年度は残り予算がないため、NHKが制作したラジオドラマなどの音情報を再度活用適応して、四角柱に省略した形体のCGロボットで、誇張ロボと省略ロボの動きをつくって印象評価実験を行う。人型や従来型ロボットの何かを擬人化・動物化した外観でなく、彫刻のような形体に外観情報を削ぎ落としたCGロボットで検証実験を行ってみる。この実験でラジオ音適応の省略ロボが高評価であれば次の申請では彫刻のような実機ロボットを制作して、より静的な省略想像芸術の可能性を明らかにする。 さらに次の研究では、能の居グセにおける省略想像芸術の要素である音と物語について、物語の工夫で音が減らせるかも探求する。人は話の内容に引き込まれやすいため、物語の人への影響を強くして音や動きが少なくても生命感があり感情豊かな静的ロボットの創生を目指したい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初2023年度計画していた本実験が、研究が進んだため2022年度に実施した。具体的な内容は、能の音機能と同じNHKラジオドラマの音機能を活用した実験を行うNHK関係者への制作費が必要になったためである。NHKの職員はNHK会長承諾の上で無償で技術協力してくれた。しかし、脚本家、サウンドアーティスト、声優、録音スタジオなどは総額100万円近い制作費が発生した。 これら一流のエンジニアやアーティストの協働で、ロボット実験用の見事なラジオドラマが完成した。それらを実験に活用した結果、能の省略想像芸術と同じ効果がロボットでも高精度に再現することができた。
|