研究課題/領域番号 |
21K19813
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中岡 慎治 北海道大学, 先端生命科学研究院, 准教授 (30512040)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | エネルギーランドスケープ解析 / データ駆動型数理モデル / 発症ロードマップ / オミクスデータ / 擬似時間再構成法 |
研究実績の概要 |
本年度では、細胞分化や発症の動的な遷移の軌跡を推定する手法の妥当性を検証するために必要なデータ解析を進め、結果として査読付研究論文を3編発表した。 研究論文 [1] では、授乳期における母子から5ヶ月間にわたって経時的に取得した腸内細菌叢データと代謝物の網羅的計測データ (NMRメタボロミクス) の時系列データ解析を行った。その結果、ビフィズス菌種の交代(Bifidobacterium breve から Bifidobacterium longum subsp. infantis)、糞便中の酢酸や酪酸などの代謝物も変動がみられることを明らかにした。
研究論文 [2] では、複雑な微生物および微生物・宿主間の相互作用を推定するため、数理モデルのシミュレーションから得られた微生物動態の擬似的時系列データを用いて、微生物相互作用ネットワークを推定する5つの手法について比較検討した。本研究課題と関連して、相互作用を検出する手法候補の1つを提案した。その結果、提案手法の有用性を確認することができた。
書籍のChapterとして寄稿した研究論文 [3] では、重要な疾患である発ガン過程に着目した解析を進めた。具体的には、ガン細胞がどのように増殖・進化して体内に存続するかを検討するため、ガン細胞集団の動態を記述した数理モデルをシミュレーションから得られたガン細胞動態の擬似的時系列データを用いて、細胞間相互作用を推定する手法の検討を行った。その結果、相互作用関係を推定する手法と発ガン進行パターンを記述した力学系の間に、興味深い関係性が得られることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
エネルギー地形上で細胞分化や発症の動的な遷移の軌跡を推定するため、本年度はデータからイベント (細胞分化や発症) 発生と状態遷移の起こりやすさを推定 (エネルギー地形の構成) する複数の解析手法を検討した。推定手法各種を様々な実データに適用することで、定量的に観測データを説明できる有用な推定手法候補の探索を進めた。実データとして腸内細菌叢データを用いることで、発ガン、神経性疾患をはじめとする様々な発症過程進行に対して有効な解析手法の候補を選定した。当初想定していた推定手法とは異なる推定手法が、より定量的に観測データを説明するという予備的な結果も得た。
加えて、細胞分化や発症の動的な遷移の軌跡を推定手法の妥当性を検証するために必要なデータ・数理解析を実施したが、これまでに査読付論文が3編発表されている。
以上の理由により、本研究は当初の計画以上に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
エネルギー地形上で細胞分化や発症の動的な遷移の軌跡を推定するため、次年度ではデータからイベント (細胞分化や発症) 発生と状態遷移の起こりやすさを計算 (エネルギー地形の構成) し、エネルギー地形に基づく状態遷移過程を推定することで、状態遷移過程モデルから発症や細胞分化の進行を推定する手法の開発に取り組む。次年度では引き続き、エネルギー地形に基づく状態遷移過程を推定する解析手法について、他の候補も含めて検討する課題を継続して進める。また、次年度では、もう1つの課題である、状態遷移過程モデルから発症や細胞分化の進行を推定する手法について、様々な推定手法の検討を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では、エネルギー地形に基づく状態遷移過程を推定可能な数理解析手法を複数検討することで、発症や細胞分化の進行を推定できる有効な方法論の検討を進めてきた。発ガン過程の進行を推定する予備解析の過程で、当初候補として想定していた推定手法とは異なる推定手法が、より定量的に観測データを説明するという予備的な結果を得た。この推定手法をより詳しく検討するため、当初計画していた使用計画を変更し、物品費、旅費ならびに人件費・謝金を次年度使用と統合して計画する必要が生じた。
|