Wikipediaは既存の百科事典とは異なり、自由に参加する編集者の編集により自己組織的に発展している系である。従って、記事だけでなく編集者側の興味や能力、専門性といった性質も幅広く、そのため単純な編集の多さだけでは記事の「質」を測ることは出来ない。そこで、編集者の性質として、1)記事の保守・整備的な編集と2)記事の内容への加筆という2つの異なる編集傾向を仮定する。保守・整備的な編集傾向が強い編集者は膨大な数の記事を編集しており、記事の内容への加筆傾が強い編集者は比較的限られた記事に対する集中した編集を行い記事の「複雑性」に寄与していると仮定する。本研究では、Wikipediaを編集履歴から決まる記事と編集者の二部グラフとして捉え、上記の仮定に基づき導入した複雑性-散漫度指標を軸にデータ解析と理論研究を合わせて行なってきた。これまでの研究から、提案指標がWikipediaの記事の「複雑性」を上手く評価しており、解析からWikipediaにおける多様な記事と編集者の存在が明かになっている。 本年度は、編集者の内在的性質を2変数(保守・整備的編集傾向と記事の内容への加筆傾向)のみで記述したWikipediaの編集活動のモデルを提案し、上述の仮定を検証した。記事については「質」のみの1変数で記述する。本モデルは2つの編集傾向のみを取り入れた単純なモデルであるが、モデルから生成した編集関係ネットワークは実際のWikipediaの編集関係ネットワークが持つ基本的なネットワークの特徴を再現しており、また、複雑性-散漫度指標や被編集回数や編集回数といった観測量と記事・編集者の内在的性質も、それぞれが期待される相関関係を実現することを明らかにした。これらの成果については、投稿論文としてまとめ出版済みであり、また、これらの成果について国際学会で講演を行なった。
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