研究課題
紫外線や放射線に加えて、環境中の様々な天然及び人工の化合物などにより、DNA損傷が生じる。DNA損傷の多くは、RNAポリメラーゼやDNAポリメラーゼの進行を妨げて、転写とDNA複製をともに阻害する。遺伝子領域で起こる転写と複製の衝突の回避機構が知られている。しかし、DNA損傷の多くは非遺伝子領域にランダムに生じており、それらのDNA損傷によるDNA複製の阻害の大部分は、転写の阻害とは異なる場所で起こり、転写とは独立に解消されるはずである。ところが、イルジンSによるDNA損傷によるDNA複製阻害の解消機構の解析をすすめる中で、DNA複製の阻害と転写の阻害及びそれらの解消機構には連携機構があることを示唆する知見を得た。本研究では、DNA損傷によるDNA合成の停止に応答して転写の制御に関わる因子の探索を実施した。内在性のPCNAをK164変異体に置換してPCNAの翻訳後修飾を阻害し、DNA損傷による複製阻害の解消機構であるDNA損傷トレランスを阻害した細胞株を用いて観察されたイルジンS処理後の持続的な転写の停止に関わる因子群を、siRNAライブラリーを用いて探索し、複数の候補遺伝子を得た。それらについて、さらに複数のsiRNA及び種々阻害剤を用いて検証を進めた中で、特に、DNA損傷応答において重要な役割を担うATRの関与を見出した。DNA損傷によるDNA複製の停止と転写の停止をつなぐシグナル経路の存在を強く示唆するものであり、挑戦的研究として実施した本研究をさらに発展させる意義が明確になったと考えている。
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Life Science Alliance
巻: 5 ページ: e202201584
10.26508/lsa.202201584