研究課題/領域番号 |
21K19844
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中沢 由華 名古屋大学, 環境医学研究所, 講師 (00533902)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム不安定性疾患 / VUS |
研究実績の概要 |
次世代ゲノム解析技術が普及してきたことにより、各種疾患の発症原因となっている遺伝子変異の同定が急速に進んできた。しかし、同定される変異の多くは、疾患原因である事の確証が得られやすい、エキソン領域あるいはエキソンとイントロンの境界領域に生じたものである。一方、病的意義が明らかでない変異 (Variants of Uncertain Significance: VUSs)のデータも大量に蓄積されてきているが、これらVUSの疾患発症原因としての検証あるいは生物学的な意義付けについては、十分には行われていない。本研究ではゲノム不安定性を示す遺伝性疾患群を対象として、マルチオミクス的アプローチによりVUSの病原性について検討・評価し、疾患原因変異を同定する新たな手法の構築に取り組む。ゲノム不安定性疾患群は、DNA損傷応答やDNA修復機構の先天的な異常により発症する様々な遺伝性疾患を包括しており、多種類の希少な疾患も含まれる。一般的に、次世代ゲノム解析で疾患原因変異が同定されるのは、およそ30-40%程度と言われており、残りの60-70%は発症原因が不明なままである。そこで、次世代ゲノム解析のみでは疾患原因が特定できないゲノム不安定性疾患疑い症例について、VUSの病原性評価により新規疾患原因変異の特定を目指す。また、マルチオミクス的アプローチを応用して、疾患治療薬・緩和薬・予防薬の探索にも取り組む。本年度は、ゲノム不安定性疾患疑い症例の収集を実施したほか、次世代ゲノム解析で検出されたVUSに関してマルチオミクス的解析を実施し、病原性の検討と評価を進めた。その結果、いくつかの症例についてVUSの中から新規疾患原因変異を特定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画をもとに、ゲノム不安定性を示す遺伝性疾患が疑われる症例で、次世代ゲノム解析のみでは疾患原因変異の同定が困難であったケースを対象に、ゲノム解析で抽出されたVUSについて、マルチオミクス的アプローチによりその病原性の検討と評価を実施した。その結果、いくつかの症例でVUSの中から新規の疾患原因変異を同定することが可能であり、本法の有効性が確認された。また、本解析方法は疾患治療薬・緩和薬・予防薬探索への応用が可能と考えられ、現在検討を進めているほか、ゲノム不安定性疾患疑い症例の収集も実施した。これらのことから、本研究課題は順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度、次世代ゲノム解析のみでは疾患原因変異が同定されなかったゲノム不安定性疾患疑い症例について、検出されたVUSを対象にマルチオミクス的アプローチによりその病原性の検討と評価を行ったところ、疾患原因変異の特定が可能であった。このことから引き続き、本解析方法を用いて、VUSの病原性検証を実施し、新規疾患原因変異の同定を進める。また、より精度の高い解析方法とするため、適宜改良と検証を実施する。さらに、疾患治療薬・緩和薬・予防薬の創出に向けて現在検討を進めている探索方法への応用について、より詳細な調査を実施し候補薬の特定を目指すほか、ゲノム不安定性疾患が疑われる症例の収集も継続して実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: 当初は、VUSの病原性を評価する手法を構築するため各種条件検討を実施し、解析スキームを決定する予定であった。しかし、予定よりも順調に条件検討が進み、早期に解析手法の枠組みの決定が可能であった。そのため、すでに本解析方法を用いてVUSの評価を進めており、疾患原因変異の同定も達成している。早期に手技構築が実現したことから、より多くのVUS評価 (新規疾患遺伝子変異の探索)に充てることを計画したが、COVID-19の影響により必要資材の調達が遅れたため、次年度に使用することとした。
使用計画: 次世代ゲノム解析のみでは疾患原因が同定できなかったゲノム不安定性疾患疑い症例について、VUSの評価 (新規疾患遺伝子変異の探索)を実施する。当初の計画よりも多くの症例を対象として検討を進める予定である。さらに、原因特定に至った症例に関しては、治療薬候補の探索も実施する計画であり、解析対象症例が増えることで治療薬探索を実施する症例も増加すると考えられ、それらの費用にも充てる予定である。
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