研究課題/領域番号 |
21K19848
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
市川 香 九州大学, 応用力学研究所, 准教授 (40263959)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | GNSS / 海面反射波 / 波浪 / 有義波高 / 有義周期 / 干渉計 |
研究実績の概要 |
GNSS衛星からの電波が海面で反射してからアンテナに到達する場合,最短距離である衛星からの直達信号よりも,常に長い経路長を通ることになる。このとき,同じGNSS衛星からの距離が異なって計測されてしまうため,GNSS測位手法においては,マルチパスとして忌諱されている。 経路長が異なる直達波と反射波は,アンテナ到達時の電波の位相も異なるため,両者は位相干渉して受信合成波の強度が変化する。反射波の過剰経路長は,反射点の海面の高さに依存するので,波浪によって海面の高さが変わると,受信した信号強度も干渉によって強くなったり弱くなったりを繰り返す。つまり,経路長がGNSS電波の波長である約15~20cm変化する度に,干渉強度が周期的に変化する干渉縞が生じる。従って,GNSSアンテナで受信した信号強度の時間変化の回数を計測することで,海面高の干渉計として利用できる。本研究は,対馬海峡を毎日往復するフェリー「ニューかめりあ」に設置したGNSS受信アンテナのデータにこの原理を適用し,その解析により波浪の周期と波高を推定するものである。 昨年度に測器を設置し観測を開始したので,そのデータの解析結果を検討したところ,干渉計として正確な測定を行うには,サンプリングを高頻度にする必要があることが判明した。そこで今年度は測器の限界である20Hzまで観測頻度を上げたところ,安定して推定ができるようになった。 さらに,受信電波のシミュレーション結果から,計測データからの波浪周期と波高を推定には,波浪スペクトルのピーク周波数周りの形状に依存することが分かった。対馬海峡の観測データと日本気象協会の再解析データとの比較の結果,対馬海峡ではスペクトルが比較的幅の狭い分布を示す結果に近いことが推定された。今後,比較データ数を増やすとともに,同様の装置を別海域のデータに適用し,海域によるスペクトル依存性を検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
全くの新規観測である点を考えると,ほぼ想定の範囲内で順調に展開しており,解析結果の精度等も良好である。船舶に対してのアンテナの設置方法や,観測サンプリング頻度などの技術的な検討事項については,昨年度の実データ収集の結果により,ほぼ完了している。少なくとも,対馬海峡と「ニューかめりあ」の大きさの船舶の組み合わせにおいては,船体動揺などの問題点も発生していないことも確認できており,アンテナを安定させるためのスタビライザーなども不要であることが分かっている。 このように,手法の原理的な部分に関しては,ほぼ完成段階になったと言える。今後は,波浪スペクトルの特性が固定できるように特定海域に特化して観測精度を上げる試みや,海域や船舶サイズへの依存性がどの程度あるかを他の観測船を用いて検討する予定である。 ただし,実用上の問題点として,推定に用いることができるGNSS衛星の個数が少ないという問題点が残っている。この手法では,GNSS衛星の反射波と直達波が位相干渉しないといけないので,電波の偏波方向が同じである必要がある。しかし,GNSSではマルチパスを避けるために円偏波が使われており,反射面に対する入射角が大きいと偏波が右旋と左遷が逆転するために位相干渉しない。このため,この手法は低い仰角の衛星信号しか利用できない。技術的な解決課題と,今年度はこの問題を解決する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度は,現在の手法をさらに発展させるために,主に次の3つの課題を行う。 ①ニューかめりあでのデータ処理を自動化させ,再解析データとの比較数を増やすことで,対馬海峡における波浪計測の精度を向上させる。 ②同種の装置を他の船舶に設置し,海域や船舶の大きさによって推定結果にどの程度影響が出るかを評価する。 ③GNSSアンテナの背面にコーナーリフレクターを設置し,高仰角衛星の海面反射波をもう一度アンテナ近くで反射させて電波の偏波方向を揃える手法を開発する。これによって,使用できるGNSS衛星の個数を増やす。
|