研究課題
GNSS衛星からの電波が海面で反射してからアンテナに到達する場合,衛星から最短距離で直接到達する信号よりも長い経路長を通ることになる。これはGNSS衛星から遠い場所で受信したというエラーとなるため,GNSS測位において反射波はマルチパスとして忌諱されている。一方,直達波と反射波の経路長の違いはアンテナ到達時の電波の位相の差となるため,両者は位相干渉して受信合成波の強度が変化する。反射波の過剰経路長は反射点の海面の高さに依存するので,波浪によって海面の高さが変わると,干渉によって受信した信号強度も強くなったり弱くなったりを繰り返す。つまり,経路長がGNSS電波の波長である約15~20cm変化する度に,干渉強度が周期的に変化する干渉縞が生じる。従って,GNSSアンテナで受信した信号強度の時間変化の回数を計測することで,海面高の干渉計として利用できる。本研究は,航行中のフェリーにGNSS受信機を設置し,高サンプリングレートで信号強度を記録することで,有義波高と有義周期を計測するものである。昨年までの結果を踏まえて,本年度は推定アルゴリズムの改良を行った。対馬海峡を往復するフェリー「ニューかめりあ」に設置した実際のGNSS受信データの解析により,船体動揺に起因する長周期の受信強度変動が含まれていることが分かったため,これを除去することで有義周期の推定精度を向上することができた。有義波高の推定に周期が用いられるため,周期の精度向上にともなって,有義波高も精度向上した。また,受信データのシミュレーションにより,推定精度は波浪スペクトルの形状に依存することが推察されたので,外洋を航行する東海汽船のフェリー橘丸でも同様な受信機を設置して記録を開始した。検証用に日本気象協会の波浪再解析データを広域にわたって購入したので,データを蓄積しつつ,海域による有義周期・波高の変換式の差異を検討する。
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