研究課題
北海道東部沿岸域を対象に、海岸地すべりによる土砂供給が沿岸生態系に与える影響の評価を行う。この目的を達成するため、(1)広域スケールでの沿岸生態系の定期調査、(2)地すべり発生後の生態系の変化の集中的な観測、(3)地すべり調査定点における連続的な観測、(4)上記の結果を取り入れた流動・生態系動態統合モデリングを組み合わせた研究を行う。これにより、陸源物質の河川を介した影響と地すべりによる土砂供給の直接的影響の相対的重要性を明らかにする。本研究で展開する生態学分野と地質学分野の異分野協働研究は、防災と生態系・生物多様性保全という社会的なニーズの高い課題を統合的に扱うことを通じて、新たな学問分野の創設につながることが期待される。海洋生態系の変動については、昨年度に選定した厚岸湾の研究サイトにてドローンによる連続撮影を実施しがけ崩れ現場の藻場の変化を追跡した。その結果、がけ崩れの頻度に応じた藻場の透明度の変化が明らかになったが、藻場の分布との関連性については、藻場面積のみを説明変数にした場合は明瞭な傾向が見られなかった。そこで、ドローン画像より藻場を構成する海草、海藻の種および機能群を深層学習により判別し、藻場の構成グループごとに土砂崩れとの関連性を統計的に解析する手法の開発に着手した。一方、前年度に開始した地すべりの動態観測により、2021年11月より滑動を始めた地すべりは、雨などのイベントごとに後退性の地すべりを段階的に繰り返したことによって、湾への土砂の流出量が拡大したことが観測された。また、超音波距離計を用いて侵食量を計測する測定器を新たに導入した結果、観測を行った8か月間における侵食量は約300 mm であり、季節によって大きく変動することがわかった。このような計測を継続することで、平均的な年間土砂流出量や流出時期、流出した場合の流出速度が得られる見通しを得た。
2: おおむね順調に進展している
研究開始当初より続いているコロナ禍に伴う行動制限のため、2021年度は調査回数が十分に確保できなかった。今年度は移動制限の解除に伴い、順調に観測データが得られており、野外調査の遅れを取り戻すことができた。当初の予定に加え、平時の海岸侵食量のデータも得られつつあるため、より高精度な土砂流出量に関する議論が期待される。
前項で言及した通り、ドローン画像と深層学習を組み合わせた新たな手法により藻場の構成種・機能群ごとの動態解明を進める。また、超音波距離計を新たにもう一点導入し、場所による侵食量のばらつきを調べる。また、地すべりの動態観測、侵食量の観測を継続するとともに、得られた記録を解析し、土砂流出や侵食をもたらす原因を気象・水文要素や海象要素、さらに地震動の大きさと比較することによって明らかにする。さらに、その結果から当観測地域の平均的な年間土砂流出量や流出時期などについてアップデートする。以上のデータをとりまとめ、他地域にも適用可能な一般性の高い成果の導出に取り組む。
コロナ禍に伴い、野外調査の回数、期間、内容が変更となった。また一部の野外観測項目について実施期間の延長、および観測方法の変更に伴い、モデリングに必要なデータが本年度中に取得できなかったため、関連する研究項目の開始が当初予定より遅くなった。このため、次年度使用額が生じた。繰り越し経費は、新しい観測手法によるデータの取得、および統合的モデリングの実施に利用する予定である。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
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