研究実績の概要 |
本研究では『LIB からの有価元素回収法の開発』を目的とし、炭素還元と塩素化反応を併用することで有価元素(Li,Co,Ni,Mn) を分離回収可能な技術の開発基盤を目標に掲げる。得られる成果はLi, Ni, Co, Mn を含むLIB を対象に統計的データを取得することから将来市場に出回る複合系LIB からの元素回収法への発展が期待され、その社会的意義は大きいものと予測される。 令和3年度は主に塩素化挙動と機構解明に重点を置いて取り組んだ。LiCoO2,LiNiO2,LiMnO2をCl2中で加熱するといずれの試料でも600oCを超えるとLi, Co, Ni, Mn の揮発が認められ、それらの揮発率は温度の増加で増大した。1000oCにおけるLiの揮発率は試料に依らず55-60%であったのに対し、Co,Ni,Mnの揮発率は45-90%と元素により揮発率が異なった。炭素質物質をLiCoO2,LiNiO2,LiMnO2に物理混合した試料でも700oC以上からLiの揮発が認められたものの、1000oCまでの揮発率は試料により異なり、炭素質物質添加時と比較し小さいものであった。類似の傾向はCo,Ni,Mnの揮発率でも認められた。しかしながら、炭素質物質の添加の有無に関わらず、各元素の塩化物種の物性(融点、沸点)が近いことから、それらの差を利用して個々に各元素を揮発分離回収することは困難であると判断した。そこで、各塩化物種の不活性、酸化雰囲気下でのTG分析とXRD分析の結果から、600oCまで塩素化処理したLiNiO2を空気雰囲気下で1000oCまで熱処理したところ、Niを固相に残存させつつ、Liのみを揮発分離させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は主に塩素化挙動と機構解明に重点を置いて取り組んだ。LiCoO2,LiNiO2,LiMnO2をCl2中で加熱するといずれの試料でも600oCからLi,Co,Ni,Mnの揮発が認められ、それらは温度の増加で増大した。1000oCにおけるLi揮発率は試料に依らず55-60%だったが、Co,Ni,Mn揮発率は各々80,90,45%と元素種で揮発率が異なり、Liと揮発温度域が重複しており、各元素を個別分離することは困難であった。次に、炭素質物質をLiCoO2,LiNiO2,LiMnO2に物理混合した試料を塩素化処理に供した。混合試料をCl2中で熱処理するといずれの試料においても700oC以上からLiの揮発が認められたものの、1000oCまでの揮発挙動は試料に依存し、LiMnO2<LiCoO2<LiNiO2の序列となった。また、炭素質物質添加時と比較し、Li揮発率は小さかった。Co,Ni,Mnの揮発も700oC以上で生じ温度増加で増大したが、それらの挙動は未添加時とは異なり1000oCまでの揮発率(10-40%)も小さく、元素間の揮発率の序列はLiの場合と類似した。また、炭素質物質添加においてもLiとCo,Ni,Mnの揮発温度域は重複した。XRD分析から各元素の揮発が生じる温度までに各種の塩化物種の生成が認められた。そこで、各塩化物種の不活性、酸化雰囲気下でのTGとXRD分析の結果から、600oCまで塩素化処理したLiNiO2を空気中、1000oCまで熱処理したところ、Niを固相に残存させつつ、Liを60%揮発分離させることができることを見出した。XRD 分析の結果、酸化処理を行うことで NiCl2はNiOに変化するものの、Liは塩化物形態のままであったことから両元素の分離が可能であったと推測される。以上の結果から、当初計画した通り目標をほぼ達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
申請者の研究に依ると LiNiO2 を Cl2 中で 600oC まで加熱後、雰囲気を空気に切り替え1000oC まで加熱すると Ni を固相に残存させつつ、Liを揮発分離可能であった。しかし、完全分離は未達成である。そのため同様の手法を LiMnO2, LiCoO2 に対しても適用し、Liと Mn, Co 種の分離を試みる。1ステップ目の塩素化温度 (400-700oC) を変化させた検討も行い、分離回収のための最適な塩素化温度を明らかにする。2ステップ目では酸化温度を~1300oC まで増大させ、Liが完全揮発する温度を解明するとともに他の加熱条件の影響(昇温速度、保持時間、分圧) を検討する。また、2ステップ目ではCo, Ni, Mn 種は塩化物から酸化物に形態変化し、Li は塩化物種を保持していると考えられることから、加熱後の試料の水洗浄を行い、Li と Co, Ni, Mn 種の分離回収も試みる。上記成果に依ればLiは揮発し、共存元素は酸化物種として固相に残存することからLiを完全揮発させ得れば選択的分離が完了することが予想されるが、揮発したLi種の冷却堆積法による分離回収も試みる。本手法は揮発 Li がどの程度の温度で冷却堆積するかを検討する上で重要である。具体的には反応器中心~出口に温度勾配を設定し、揮発するLiの種を冷却区間で温度毎に堆積させる。実験では反応器中心部~出口に5cm 角の円筒石英セルを敷き詰め、温度制御は電気炉で行ない必要に応じて滞留時間を変化させる。各温度帯での堆積物の量と形態はICPとXRDで定量/定性し、冷却堆積法による各元素の堆積形態と分布を明らかにすると共に高濃縮率/回収率を達成可能な最適条件を提示する。
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