大型動物死体の分解には、多様な生物が関与しているが、中でも死肉食性双翅目幼虫は、脊椎動物不在下で死体の9割を分解するなど、死体分解に大きく寄与するとともに、分解期間を短縮させる。また、双翅目幼虫の出現有無や分解速度は季節により変化することが知られる。その理由として、双翅目幼虫の季節による分解速度の差は温度や湿度、種組成によるものだと考えられているが、その季節差は地域により異なり、日本における双翅目幼虫の死体分解の速度と要因について調べられた研究は少ない。 そこで、死肉食性双翅目幼虫による大型脊椎動物死体分解期間の季節差とその差が生じる要因を明らかにすることを目的とする。目的達成にあたり、自然環境下にニホンジカCervus nippon(以下、シカ)の死体を設置し、幼虫の生育に影響を及ぼすと考えられる要因を推定した。 実験は広葉樹林内において、捕殺されたニホンジカを用いた。シカ死体は10㎝メッシュの鉄檻内を設置した。死体の分解時間にかかわる要因を評価するために、各調査サイトの温湿度、シカ死体の内部温度、シカの体重を記録をした。 ハエ類の幼虫による死体分解が活発な新鮮期から分解前期終了までに要した時間を季節間で比較すると、春と秋には分解に要する時間が増加し、夏には減少した。また、死体の体重が設置時の約20%になるまでに要した時間は、春と秋では長く、夏は短くなる傾向がみられた。また、採取された幼虫の個体数は春から夏にかけて増加した。また、幼虫の体長は春に大きい個体が多く、夏には小さい個体が多くなる傾向にあった。有効積算時度に対する死体重量の減少率は、死体の体重が設置時の約20%になるために必要な有効積算時度は夏と秋でほぼ一定であるのに対し、春には大幅に増加した。
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