研究課題/領域番号 |
21K19860
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
西川 潮 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 准教授 (00391136)
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研究分担者 |
勝見 尚也 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (40769767)
伊藤 浩二 岐阜大学, 地域協学センター, 助教 (30530141)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 環境配慮型農業 / 里山資源 / 無農薬稲作 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、竹粉から生成・溶出する無機物・有機物を探索し、これらの有機物・無機物が水田雑草やイネ、生物多様性に与える影響を調べ、無農薬稲作への応用を図ることである。これにより、里山のバイオマスの利活用を軸とした、資源循環型農林業の創生への新展開が期待される。 これまで室内実験については、芳香族カルボン酸や揮発性脂肪酸等の分析条件を確立するとともに、湛水培養条件を検討した。湛水培養実験については、文献調査により、湛水培養に必要な材料を調達した。その後、予備試験を行い、湛水培養による還元の進行を確認した。圃場実験については、これまでの3年間に及ぶ実験の結果を取りまとめた。実験1年目は、対照区と比べ、竹粉中量・多量施用区で米の収量が増加したが、実験2年目以降は竹粉の施用による米の増収効果が認められなかった。竹粉施用区では、実験後に稲体および水田土壌のケイ酸含量が著しく減少していたことから、もみ殻・玄米へのケイ酸吸収が促進されて米生産に使われた可能性が示された。一方で、芳香族カルボン酸類や揮発性脂肪酸等の発生が水田雑草の根の発育阻害を起こし、イネの栄養塩吸収および成長を助長したとする代替仮説も有力である。実験2年目以降は土壌中のリン酸が米収量の制限栄養塩となっていたことから、土壌中のリン酸が不足しない条件下で稲体へのケイ酸吸収が促進され、収量の安定化につながる可能性が示された。 研究結果は、国際学会でオンライン発表するとともに、オープンアクセスの査読付国際誌に論文を発表した。また、成果の一部を石川県立七尾高校の講義および国立台湾大学のセミナーで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
室内実験―2021年度は芳香族カルボン酸や揮発性脂肪酸等の分析条件を確立するとともに、湛水培養条件を検討した。まず、既設のHPLCを改良するとともに、スチレンジビニルベンゼン系ポリマーのカラムを新たに購入したことで、ポストカラム法による芳香族カルボン酸や揮発性脂肪酸の分析が可能となった。加えて、装置内部のランプやレンズといった部品の交換や配管を更新など装置のメンテナンスを行い、今後の分析に備えた。湛水培養実験については、まず過去の文献を精査し、湛水培養に必要な材料を調達した。その後、予備試験を行い、湛水培養による還元の進行を確認した。一方、芳香族カルボン酸類による水田雑草コナギの成長抑制効果を明らかにする生育実験についても、野外個体群からの種子採取と湛水保存を行ったほか、発芽率を高めるための条件の精査を行い2年目以降の実験に備えた。 圃場実験-3年間に及ぶ圃場実験の結果から、実験1年目は竹粉の施用により米の収量が増加したが、実験2年目以降は増収効果が認められなかった。竹粉施用区では、実験後に稲体および水田土壌のケイ酸含量が著しく減少していたことから、もみ殻・玄米へのケイ酸吸収が促進されて米生産に使われた可能性が示された。一方で、芳香族カルボン酸類や揮発性脂肪酸等の発生が水田雑草の根の発育阻害を起こし、イネの栄養塩吸収および成長を助長したとする代替仮説も有力である。実験2年目および3年目は土壌中のリン酸が米収量の制限栄養塩となっていたことから、土壌中のリン酸が不足しない条件下で稲体へのケイ酸吸収が促進され、収量の安定化につながる可能性が示された。 研究結果は、国際水田・水環境工学会(PAWEES)でオンライン口頭発表を行うとともに、オープンアクセスの査読付国際誌に論文を発表した。また、成果の一部を石川県立七尾高校の招待講義および国立台湾大学の招待セミナーで発表した。
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今後の研究の推進方策 |
室内実験―2021年度は本研究に必要な実験系を構築することができたものの、実験条件の検討に予想以上の時間がとられたため、湛水培養試験を開始できなかった。2022年度は今回構築した実験系を用いて資材からの有機酸や無機成分の溶出ポテンシャルを明らかにするとともに、実際の圃場試験における有機酸や無機成分の濃度を調査する。一方、芳香族カルボン酸類による水田雑草コナギの成長抑制効果を明らかにする生育実験については、2022年度に竹粉浸出液、竹粉土壌培養液、蒸留水を用いて種子根の成長量を測定し、竹粉による生育抑制効果を検証する。 圃場実験-2022年度は金沢大学の16筆の実験田を用いて、竹粉の施用時期の違いが、水稲収量、米の外観品質・食味成分および水田の生物多様性に与える影響を明らかにする。竹粉元肥施用の有無と竹粉追肥施用の有無をクロスさせた2×2要因計画の4処理区を無作為に実験田に割り当てる。各処理区で、水稲の生育、収量および米の外観品質・食味成分を測定する。あわせて、水田のアシナガグモ類と底生動物を指標生物として水田の生物多様性への影響を調べる。秋の収穫後に稲わらを細断し、稲わら還元区と稲わら非還元区を設けることで2023年度の竹粉施用による水稲収量向上の安定性実験に備える。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、学会がオンライン開催となったため、2021年度に支出を予定していた旅費の執行額が0であった。2022年度は、学会に対面参加できる状況になった場合にはこの繰越額を旅費として使用するが、再び全面オンライン開催となった場合は消耗品費として利用する。
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