R3年度は、高知県土佐市にある浦戸湾の海底から採取した堆積物からDNA抽出を実施し、真核生物をターゲットとしたPCR条件の最適化を行った。 R4年度には真核生物由来の遺伝子群、COI(シトクロームcオキシダーゼ・サブユニットI)、18S rRNA遺伝子のアンプリコンシーケンスを行い、過去に水中に存在した動物・植物プランクトンや、湾を囲む山地の植物群の遺伝子の検出に成功した。また、世界各地の堆積物に存在する18S rRNA遺伝子の分析も実施した。R5年度は、堆積物中に生息する過去の生物群のDNAについて、ゲノム情報を得るために、ターゲットキャプチャーによるゲノムDNA回収を試みた。具体的には、被子植物の353オーソログをターゲットにしたbaitRNA、また、条鰭綱の魚類のおよそ300個の遺伝子座を標的としたbaitRNAを、浦ノ内湾堆積物から抽出したDNAとハイブリダイズし、磁気ビーズによる標的配列の回収を行なった。エンリッチされたDNAについて、150bpのペアエンドシーケンスを行いDNA配列を決定した。今後、標的とした被子植物および条鰭綱の魚類のDNAについて、堆積年代や過去の文献等から得られる周辺の植生と併せて解析することでこれらの生物群の古代の生態についての情報が得られることが期待される。R4年度に着手した世界の海洋堆積物中の18S rRNA遺伝子解析については、アンプリコンシーケンスにより得られた配列の解析を行い、世界中の堆積物に過去に海水中に存在した生物のDNAが残存していることが示された。特に堆積年代が10万年よりも若い堆積物の8割で古代環境DNAの存在が確認され、堆積物中のDNA分析により骨格を持たない生物についても過去の生態系の理解が可能になることが示された。
|