研究課題/領域番号 |
21K19884
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 軸索 / 光遺伝学 / 微小電極アレイ / グリア細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,神経細胞の軸索に対するイメージングと電気活動計測から,軸索の形状と活動伝導特性の関係を明らかにすることである.研究期間の初年度である今年度は,伝導特性の評価に向けた単一軸索からの応答記録法の確立と,電気計測デバイスである高密度電極アレイの上にマイクロ構造を形成するための技術の検討を行った. 1) 単一軸索からの応答記録法の確立:アデノ随伴ウイルスを用いてラット感覚神経細胞にChR2-GFPを発現させた.GFPの蛍光を観察しながら細胞の位置を特定し,光刺激を印加することで再現性良く細胞の活動を誘発することに成功した.細胞体での活動を基準として周囲の電極の信号を加算平均することで,軸索からの信号を検出した.さらに,軸索周囲の電極を集中させ,細胞体に対して様々な頻度で電気刺激を印加することで,軸索の伝導特性が変化する様子を検出した.以上から,電気刺激を用いた軸索からの応答記録法を開発できた. 2) 高密度電極アレイ上へのマイクロ構造形成:従来のデバイスは平面形状が平坦であるため,マイクロ構造の形成が容易であった.一方,高密度電極アレイは計測の空間分解能が高いものの,平面形状が平坦ではなく,マイクロ構造の形成には工夫が必要であった.今年度は,高密度電極アレイ上に精度よくマイクロ構造を形成するための条件を検討した.デジタルミラーデバイスを用いて,高密度電極アレイにたいして任意のパターンの光を照射した.光によりフォトレジストを感光させることで,マイクロ構造を形成できることを確認した.さらに対物レンズの倍率を変更することで,光の照射領域と構造物の精度を変更できることも確認した.以上より,高密度電極アレイ上にマイクロ構造を形成するための手法を開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は,伝導特性の評価に向けた単一軸索からの応答記録法の確立と,電気計測デバイスである高密度電極アレイの上にマイクロ構造を形成するための技術開発で会った. 軸索からの応答記録については,光刺激により誘発した活動で加算平均することで軸索の形状を特定できた.さらに,細胞体に対して様々な頻度で電気刺激を印加することで,軸索における誘発応答の刺激頻度依存性を観察できた.以上より,目標とした以上の進捗がえられた. マイクロ構造の形成については,高密度電極アレイ上にプロトタイプを形成することに成功した.神経細胞を播種することで,軸索がマイクロ構造内に伸長したことを確認し,細胞培養への適性も確認した.より精度の高い構造を作るためには,対物レンズや露光条件の最適化が必要であるが,おおむね目標を達成した. 以上から,今年度の進捗状況について,おおむね順調であると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,本年度に開発した要素技術を基に,神経細胞の軸索の機能評価を行う.まず,様々な頻度の電気刺激により記録した軸索の応答を,光刺激で誘発するための条件を特定する.その後,1-50Hz程度の刺激により,軸索の伝導速度がどう変化するかを明らかにする.さらに,軸索の形状を免疫組織化学染色法で評価し,軸索の形状と電気的特性の関係を明らかにする.同時に,マイクロ構造を用いることで,特別な解析が不要な計測条件を決定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
神経細胞に対する光刺激の条件検討に関わる実験が,想定していたよりスムーズに進み,順調に終了した.結果として細胞の培養にかかる消耗品の費用を抑えることができ,次年度使用額が生じた.生じた次年度使用額については,今年度の使用用途と同様に,細胞の培養にかかる消耗品として使用する予定である.それにより,達成が難しいことが想定される,様々な頻度での光刺激の実験において,十分な費用を充てることができ,研究がより効率的に進むことが期待できる.
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