研究課題
本年度は,PDMSで形成したチップにマイクロ流路を組み合わせ,マイクロトンネル内に伸長した軸索に対して選択的に薬剤を作用させるデバイスを開発した.チップは,細胞培養区画,マイクロトンネルから構成される.マイクロトンネルの中央部分に,トンネルに直行する方向で流路構造を形成した.この流路に試薬を流すことにより,軸索に選択的に薬理刺激を行うためのデバイスとした.計測チップであるHD-MEA上にSU-8で壁構造を形成し,PDMSを材料として流路構造を有する天井パーツを作製した.両者を組み合わせることでデバイスを作製した.蛍光色素を流す実験を行ったところ,マイクロトンネル内や培養区画にリークすることなく,流路内に試薬を流せることが分かった.実際に大脳皮質神経細胞を培養し,マイクロトンネル内に伸びた軸索から信号を記録した.流路構造を除くマイクロトンネル内から大きな振幅を有する信号を記録できた.流路からナトリウムイオンチャネルの阻害剤であるTTXや,選択的にイオンチャネルを阻害する試薬を流して軸索の伝導時間の変化を評価した.結果,流路を超えた部分,すなわち試薬が作用した部分について,試薬の濃度依存的に伝導時間が上昇した.この結果は,軸索に対する選択的な薬理実験に成功したことを示唆する.さらに,培養液で流路内の試薬を洗浄したところ,薬理実験前と同程度まで伝導時間が低下し,洗浄を行えることが示された.以上から,流路構造を有するマイクロデバイスが開発できたことが示された.これまでに,刺激の頻度やパターンに依存した軸索の伝導変化をとらえており,今年度の薬理実験と組み合わせることで,伝導特性の変化に関連が強いイオンチャネルの特定につながると考えられる.
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IEEJ Transactions on Electronics, Information and Systems
巻: 143 ページ: 641~648
10.1541/ieejeiss.143.641