ES細胞の機能を強化し、安全なiPS細胞を効率よく調製する方法を確立するのが、本研究の目的である。本研究の目指す方法は、体細胞に遺伝子操作を加えることもなく危険な薬品も不要なため、従来法に比べ、安全性も高いと考えられ、社会に与えるインパクトは大きいと期待される。 本研究では、ES細胞の機能を強化するために初期化4因子を、マウスES細胞に導入した。 初期化因子を導入しても、増殖能およびモルフォロジーに大きな変化は見られなかった。最終年度には、初期化因子を導入したマウスES細胞の未分化の状態をマーカー遺伝子発現に対するプライマーとリアルタイムPCR法を用いて評価したところ、未導入コントロールと比較して未分化の状態に違いは見られなかった。初期化因子を導入することでES細胞の初期化能力が増強されることを期待したが、初期化因子を導入しても初期化因子が細胞内で増えることはなく、細胞全体として適正な発現量に制御されていることが示唆された。また初期化因子を導入したES細胞の多分化能力に変化が見られるかどうかの評価も行った。その結果、初期化因子導入マウスES細胞の多分化能力は保持されており、マウスES細胞へ4つの初期化因子を導入しても未分化の状態や多分化能力には影響を与えないことが分かった。 また細胞融合によりES細胞の機能を増強できる可能性があると考え、まず、細胞融合の条件を探るため、マウスES細胞とマウス胎児線維芽細胞の細胞融合を試みた。交流(周波数:1 MHz、電圧:30 V)を20秒間流し、直流パルス(電圧:350 V、パルス間隔:30 μ秒)を3回かけてみたが、うまく細胞を融合することはできなかった。さらに最終年度には、マウス肝細胞癌由来細胞株とマウス間葉系幹細胞株を融合し、肝機能が向上するかどうかの評価検討も試みようとしたが、装置の故障によって細胞融合を実施できなかった。
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