本研究では、感染症予防に有効な化学合成抗ウイルス医薬によるケミカル・ワクチンという新しい概念を提案し、非侵襲的でありながら長期間ウイルスの感染・増殖を抑制可能な革新的ウイルス感染防止技術の開発を目的とする。具体的には、抗ウイルス薬を内封した負電荷と正電荷を有する2種類の脂質ナノ粒子を、微弱電流を用いる皮内薬物送達技術イオントフォレシスにより非侵襲的に皮内へ連続送達することで、ナノ粒子を静電的に凝集化・留置する。皮内に留置したナノ粒子塊からの持続的放出により、長期間抗ウイルス薬の血中濃度を維持することで、ウイルスの感染・増殖を抑制しようという挑戦的な試みである。2年目は、初年度の成果を基盤として、EICARのモデルとしてヌクレオシド(シチジン)をジオール結合したボロン酸含有ポリマーナノ粒子(PBコア)の脂質膜被覆に成功した。ボロン酸とジオール結合を形成することで蛍光を発するアリザリンレッドARを用いて、ボロン酸含有ポリマーのヌクレオシド修飾率を検討したところ、30%強のボロン酸にヌクレオシドが結合していることを確認した。また、脂質膜での被覆率もARを用いて検討したところ、約40%のPBコアが脂質膜で被覆されていることが確認できた。さらに、PBコアを赤色(AR)で、脂質膜を緑色(DiO)で蛍光標識して作成した脂質膜被覆ナノ粒子を、マウス背部皮膚上でイオントフォレシスに供した後、皮膚凍結切片を共焦点レーザー顕微鏡観察したところ、マウス皮膚内に赤色蛍光と緑色蛍光が観察され、重ね合わせ画像において黄色を呈していたことから、PBコアが脂質膜で被覆された状態で皮内に送達されていることが確認された。すなわち、PBコア被覆脂質ナノ粒子のイオントフォレシスによる皮内送達に成功した。今後、ボロン酸結合ヌクレオシドの血中への徐放などを検証することでケミカル・ワクチンの完成を目指したい。
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