研究課題/領域番号 |
21K19920
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
川上 浩良 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (10221897)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ミトコンドリア / 機能性ナノキャリア / 加齢疾患治療 / マイトファジー / アポトーシス |
研究実績の概要 |
老化が起こる主原因の1つは、細胞内に蓄積した不全ミトコンドリア(Mt)の存在である。本来、マイトファジーは不全Mtを選択的に除去するMtの品質管理機能を担っているが、老化細胞では細胞質内に大量のp53が存在しParkinと相互作用を形成、Parkin依存型ユビキチン介在型マイトファジーの誘導が阻害されている。さらに不全Mtから放出されるROSがDNAを損傷しクロマチン断片化を誘導、その蓄積がcGAS/STING経路を活性化させSASP因子を発現、誘発する。本研究ではミトコンドリアの品質管理を目的とした新規ナノキャリアを合成、そのキャリアを用い老化細胞の老化抑制(マイトファジー誘導)あるいは除去(アポトーシス誘導:Senolytic薬剤)を標的とした加齢性疾患創薬を検討する。 今年度はマイトファジー・アポトーシス誘導型ナノキャリアを合成した。ParkinはMt膜電位の低下により誘導され、Mt上に局在化する。適度なH2O2は膜電位低下を誘導する(Mtに軽度な膜損傷が起こるとMtは膜電位を低下させParkinを活性化)ことが知られており、SOD酵素活性(Mtから放出された02・- → H2O2)を持ちMt指向性を有するMnポルフィリン錯体(MnP)を合成、MnPとp53阻害剤をリポソームナノキャリア(50nm以下)に包埋することで、マイトファジー誘導を惹起することに成功した。その結果、細胞増殖が停止していた細胞は再度増殖が始まり、老化遺伝子のp21やp16の発現量は低下し、老化タンパク質のSA-β-Galも減少することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、SOD酵素活性(Mtから放出された02・- → H2O2)を持ちMt指向性を有するMnポルフィリン錯体(MnP)を合成、MnPとp53阻害剤をリポソームナノキャリア(50nm以下)に包埋することで、マイトファジー誘導を惹起させることに成功した。この際、重要となるのは、(1) 老化細胞内Mtの品質状態 (2) MnPのSOD酵素活性とMt指向性 であり、Mt周辺H2O2発生量 = (SOD酵素活性)x(Mt指向性) で決定され、MtのH2O2感受性はMt品質に依存すると考えた。比較的品質が維持されたMtでは、MtはH2O2に対し膜電位低下が優先的に起こるため不全Mtを除去するマイトファジーが誘導されると仮定し、5種類のMnPを合成、上記(1), (2)に従ってマイトファジーが誘導されることを明らかにした。一方、著しく品質低下したMt、つまりSASPを発生する後期老化細胞内では、MtはH2O2に対してアポトーシスを優先的に起こすため死細胞を誘導するSenolytic薬剤として機能する、との仮説も立てた。SOD活性の高いMnPではアポトーシスが優先されることも明らかとした。
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今後の研究の推進方策 |
当初、細胞老化は培養系で起こるアーチファクトと考えられていたが、現在では個体内においても老化細胞は存在し、その蓄積が2型糖尿病、動脈硬化、心不全などの加齢性疾患の発症に関わることが明らかとなっている。特に老化細胞の表現型の1つであるSASP(senescence-associayed secretary pkenotype)は、老化の後期において周辺組織に慢性炎症を引き起こし、がんや慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー病などを含めた様々な加齢性疾患を発症、さらには病態悪化へ導く増悪因子として考えられている。そのため、老化細胞を標的として、その老化細胞の除去(senolysis)、主に細胞死の誘導、を目的とする創薬研究が重要となる。 従って、今後は細胞老化に起因して誘発される加齢性疾患を対象とした創薬に繋がる研究を遂行する。特に、先ずは細胞で疾患モデルを作製し機能性キャリアの効果を検証すると共に、高週齢(加齢)マウスを用い2型糖尿病モデルラットへのキャリア投与を行うことで、その機能j評価をIn vivo実験で実施して行きたい。
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