神経細胞回復(インスリンの作用)と病因物質排除(コレステロール末端修飾ポリエチレングリコール:Chol-PEGの作用)のマルチな作用機序を有するバイオマテリアル(Chol-PEG修飾インスリン)を創製し、認知症治療に挑戦した。本研究で見出したChol-PEGのPEG分子量を500程度に短くしたChol-PEG500の形成するベシクルへのインスリンの内包を、Native-PAGEやBio-TEMに加えて、蛍光ラベル化インスリンを用いて、アガロースゲル電気泳動による確認を試みた。さらに、デリバリーキャリアであり、薬物を送達した後は本来不要になるChol-PEG自身に対して、アミロイドβ(Aβ)の凝集阻害能力の有無を、チオフラビンT(ThT)アッセイによって評価した。その結果、Chol-PEG500とインスリンを単純混合するのみで、ゲル電気泳動において新規バンドの出現が確認された。ThTアッセイでは、Aβに対してChol-PEG500を一定濃度以上で添加すると、蛍光強度の増大を抑制した。これらの結果は、Chol-PEG500ベシクルへのインスリンの内包、および、Aβの凝集阻害効果を示唆している。以上、Chol-PEG500は水系溶媒中で自発的に均一な粒子径100nm程度のベシクルを形成することを見出し、Chol-PEG500ベシクルへのインスリン等の薬物の内包が簡便であることから、デリバリーキャリアとしての有用性が確認された。さらに、デリバリーキャリアであるChol-PEG自身にも、Aβの凝集阻害という薬効が確認されたことから、Chol-PEG単独投与によるアルツハイマー病(AD)の予防のみならず、インスリンを含めた内包する様々な薬剤によるマルチな作用機序によるADの根治治療につながることが期待できる。
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