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2021 年度 実施状況報告書

核酸刺激を利用したがん細胞の表層着せ替え技術の構築

研究課題

研究課題/領域番号 21K19925
研究機関北九州市立大学

研究代表者

望月 慎一  北九州市立大学, 国際環境工学部, 准教授 (10520702)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2023-03-31
キーワード薬物送達システム / がんワクチン / 抗原提示 / 多糖 / 核酸
研究実績の概要

がん細胞はワクチンを投与することで誘導された細胞傷害性T細胞(CTL)に認識され攻撃を受ける。しかし、「がん」はCTLを克服するために進化する。その方法が「MHCクラスI分子」の発現抑制である。本研究の目的は、CTLにがん細胞を再び敵であると認識させるための細胞表層着せ替え技術の開発である。
CTLの感受性を回復させるために二重鎖RNAに注目した。がん細胞内には二重鎖RNAに応答してMHCクラスI分子の発現が誘導されることが知られている。二重鎖RNAのがん細胞送達にはヒアルロン酸(HA)を利用することにした。HAのカルボキシル基を用いてオリゴシチジル酸とのコンジュゲート体を作製し、オリゴイノシン酸とのハイブリダイゼーションにより二重鎖修飾HAの作製を試みた。カルボキシル基にN- (6-Maleimidocaproyloxy) succinimide (EMCS)を導入し、チオール修飾したオリゴシチジル酸40mer(rC40)と反応させた。ゲルろ過クロマトグラフィーにより反応の進行を評価したところ、rC40の溶出時間が早くなるのを確認出来た。これはrC40がHAと反応してサイズが増大したことを意味している。また、カルボキシル基に対するEMCSの仕込み比を変えることでrC40の修飾率もコントロール可能であることが分かった。作製したHA-rC40に対して分子量Mw = 3.0×105のオリゴイノシン酸を等モル添加するとほぼ全てが二重鎖形成していることがGPC及びゲル電気泳動より明らかとなった。
2022年度は作製した二重鎖RNA修飾HAがHA依存的にがん細胞に取り込まれ、MHCクラスI分子の発現を誘導できるかどうか、マウスメラノーマ細胞(B16F10)を用いて検証する。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

分子量Mw = 1.0×10^5のHAは約250個のカルボキシル基を有している。カルボキシル基に対して過剰量の1,3-ジアミノプロパンと反応させた。NMR測定より、HA1分子当たり約35個のアミノ基が導入されていることが分かった。次に、マレイミド基を有するEMCSと反応させるのだが、アミノ基に対して10当量添加しても修飾率は2,3個であり(NMRより算出)、その後のrC40との反応も十分に進行しなかった(rC40のGPCの溶出時間の変化がほとんど見られなかった)。そこで、EMCSとの反応を30当量(10当量を1晩ごとに3回添加)に条件を変えて行うと、修飾率が92%まで向上させることが出来た。その後、チオール修飾rC40と混合させGPC測定したところ、rC40由来のUVピークの溶出時間が早くなることが分かった。これよりrC40のチオール基とHAのマレイミド基の間で反応が起きたことがわかる。さらに、rC40をEMCSに対して2倍量添加させると、丁度1当量分のrC40が余っているのが観察され、ほぼ100%の効率でrC40がHAのマレイミド基と反応していることが分かった。
二重鎖RNAを形成させるべくオリゴイノシン酸を用意した。ポリイノシン酸を超音波処理させることで分子量約3.0×10^4のオリゴイノシン酸を調製した。これをrC40に対し当量添加したところ、全てのオリゴイノシン酸がrC40に結合(二重鎖形成)することが分かった。以上より、目的となる材料の二重鎖RNA修飾HA(HA-dsRNA)の調製に成功した。一般に高分子材料同士を化学的に結合させる難しいことであるが、反応条件を最適化することで非常に高い修飾率のコンジュゲート体を作製することが出来た。

今後の研究の推進方策

作製したHA-dsRNAの効果を検証するために、HA-dsRNAのCD44に対する親和性の評価を行う。これまでに申請者はHAとCD44との相互作用を水晶発振子(QCM)を用いて評価してきた。そこで、同様にQCMのセンサーセルにリコンビナントCD44を固定化し、そこにHA-dsRNAを添加し、振動数変化を観察する。HA-dsRNAがCD44に認識されるのを確認出来たら、添加するコンジュゲート体の濃度を変えて振動数変化を測定し、結合定数を算出する。
MHCクラスI分子を発現していないマウスメラノーマ細胞(B16F10)を用い、HA-dsRNAによる細胞応答を評価する。細胞にHA-dsRNAを添加し、24時間後に培養液中にIFN-gが産生されるかELISAにより検討する。コンジュゲート体が細胞内に取り込まれ、細胞内のRNAセンサーが二重鎖RNAを感知し、インターフェロン応答を誘導すると考えられる。IFN応答が確認された後は、その後MHCクラスI分子の発現が誘導されているかどうか抗体染色により顕微鏡観察及びフローサイトメトリーによる定量解析を行う。これまでメラノーマはMHCクラスI分子の発現が少ない、つまり抗原提示量が少ないためがんワクチンが効きにくいと捉えられてきた。しかし、本システムにより細胞表面上の抗原提示量増加を誘導できるようになれば改めてメラノーマ治療に対し、がんワクチンが有効に働くと期待される。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 備考 (2件)

  • [雑誌論文] Interaction between CD44 and highly condensed hyaluronic acid through crosslinking with proteins2022

    • 著者名/発表者名
      Tsuji Reika、Ogata Soichi、Mochizuki Shinichi
    • 雑誌名

      Bioorganic Chemistry

      巻: 121 ページ: 105666~105666

    • DOI

      10.1016/j.bioorg.2022.105666

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Oligonucleotide delivery to antigen presenting cells by using schizophyllan2022

    • 著者名/発表者名
      Mochizuki Shinichi、Miyamoto Noriko、Sakurai Kazuo
    • 雑誌名

      Drug Metabolism and Pharmacokinetics

      巻: 42 ページ: 100434~100434

    • DOI

      10.1016/j.dmpk.2021.100434

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Enhancement of cancer vaccine by modification of antigenicity for cancer cells2021

    • 著者名/発表者名
      Shinichi Mochizuki
    • 学会等名
      Pacifichem 2021
    • 国際学会
  • [学会発表] Induction of potent cellular immunity by adjuvant nucleic acid-antigen peptide conjugates2021

    • 著者名/発表者名
      Miyu Matsuda, Hitomo Irie, Shinichi Mochizuki
    • 学会等名
      Pacifichem 2021
    • 国際学会
  • [学会発表] Induction of the antigen presentation for cancer cells using immune response by double-stranded RNA2021

    • 著者名/発表者名
      Fuyu Yamamoto, Masashi Umeda, Shinichi Mochizuki
    • 学会等名
      Pacifichem 2021
    • 国際学会
  • [学会発表] がん抗原の提示誘導に向けたヒアルロン酸-二重鎖RNAコンジュゲート体の作製2021

    • 著者名/発表者名
      山本芙優、梅田将史、望月慎一
    • 学会等名
      第70回高分子学会年次大会
  • [学会発表] がん細胞の抗原性改変を目指したヒアルロン酸-抗原タンパク質コンジュゲート体の作製2021

    • 著者名/発表者名
      緒方聡一、辻玲佳、望月慎一
    • 学会等名
      第70回高分子学会年次大会
  • [学会発表] CpG核酸-抗原ペプチドコンジュゲートによる免疫誘導2021

    • 著者名/発表者名
      松田美悠、入江瞳、望月慎一
    • 学会等名
      日本核酸医薬学会第6回年会
  • [学会発表] がん細胞の抗原性向上を目指したタンパク質修飾ヒアルロン酸の作製2021

    • 著者名/発表者名
      辻玲佳、緒方聡一、望月慎一
    • 学会等名
      第43回日本バイオマテリアル学会大会
  • [学会発表] アジュバント核酸-抗原ペプチドコンジュゲートの作製及び免疫誘導2021

    • 著者名/発表者名
      松田美悠、入江瞳、望月慎一
    • 学会等名
      第43回日本バイオマテリアル学会大会
  • [学会発表] 二重鎖RNAによる免疫応答を利用したがん抗原提示誘導2021

    • 著者名/発表者名
      山本芙優、望月慎一
    • 学会等名
      第43回日本バイオマテリアル学会大会
  • [備考] 北九州市立大学 望月研究室HP

    • URL

      https://www.mochizuki-lab.jp/

  • [備考] 北九州市立大学 教員紹介(望月)

    • URL

      https://www.kitakyu-u.ac.jp/env/faculty/d-life/introduction/shinichi-mochizuki.html

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公開日: 2022-12-28  

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