研究課題/領域番号 |
21K19927
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
岡 浩太郎 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (10276412)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 間葉系幹細胞 / 神経分化誘導 / アストロサイト / カルシウムイメージング / 神経細胞順化培地 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
間葉系幹細胞(MSCs)は、再生医療やヒト由来の神経ネットワークモデリングへの応用が期待されており、添加する化学物質とその因子の組み合わせ、様々な共培養系の構築により、MSCsの神経への分化が試みられている。しかし、培養期間が長いことや、共培養細胞の状態に大きく依存するという欠点がある。最近、Rho経路は、MSCsの神経分化に重要な役割を果たすことが知られてきた。Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤Y-27632の添加は、形態的に神経細胞様への大きな変化が見られるものの、βIII-tublinの発現量はほぼ変わらないことや、神経細胞的な機能変化も知られていない。そこで、ヒト歯髄幹細胞(hDPSCs)に着目し、従来の神経分化誘導方法を再検討することを目的とした。 hDPSCsを用いて、神経細胞のマーカーであるβIII-tublin、神経前駆幹細胞のマーカーであるnestinの発現量とその比率を免疫化学染色により定量した。さらに、神経分化の機能的変化を調べるために、KClやグルタミン酸等に対するカルシウム応答も調べた。これらの実験結果をもとに、神経分化の程度を評価しながら最適培養条件を絞り込んだ。 まず、ラットより分離した海馬神経細胞とhDPSCsの共培養を行った結果、海馬神経細胞は神経分化誘導能を有するが、それは培養条件に依存した。そこで海馬神経細胞やアストロサイトの順化培地を、培養日数を様々に変えて取得し、さらにそれを段階的に希釈するなどの、12の条件からより良い分化条件を抽出した。次に、βIII-tublinとnestinの発現量とその比率を比較し、4条件を選択した。カルシウム応答波形から、機能的分化の観点から2条件に絞り込んだ。最後に、ROCK阻害剤との組み合わせで、海馬神経細胞馴化培地とアストロサイト馴化培地からの神経細胞への分化は重畳的に作用することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究で神経細胞マーカーなどを用いることにより、神経細胞への分化誘導が可能であることが判明してきていた。またカルシウムイメージングにより細胞興奮を可視化したところ、ナトリウムチャネルを開口させる薬物や高濃度カリウムイオン刺激による細胞膜電位の脱分局でのカルシウム動員を観察することができた。さらには末梢神経が持つと考えれられる種々の受容体を刺激する薬物による神経細胞様の興奮も可視化することに成功した。一方で前年度までの研究では、この分化細胞の形態は紡錘型やバイポーラー型が多く、マルチポーラーの神経細胞の形態とは大きく異なっているのが難点であった。本年度は海馬神経細胞順化培地を用いること、またROCK阻害剤を適用する条件を検討することにより、神経細胞により近い形態まで分化誘導することに成功した。これにより歯髄幹細胞をヒト末梢神経モデルとして利用する研究は大きく進展させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまで我々はヒトケラチノサイトとラット神経節細胞を共培養することにより、in vivo末梢神経系モデルの構築を進めてきた。このラット神経節細胞を、今回神経様に分化誘導することに成功したヒト歯髄幹細胞にリプレイスすることにより、オールヒト細胞での末梢系を構築し、その機能を様々なイメージング技術を利用して調べることを進める。特にケラチノサイトと神経様細胞の相互作用について、機械刺激や様々な薬物刺激に対して調べることを行うとともに、ケラチノサイトから放出されるATPによるシグナル伝達の可視化実験や痛み緩和物質として知られているオキシトシンの細胞外での蛍光イメージングを行い、繰り返しの機械刺激が痛み伝達を末梢神経系で緩和することができるのか(痛いの痛いの飛んでいけ仮説)を直接証明することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度までに歯髄幹細胞を神経細胞様に分化誘導させるための大きな障害となっていた、「細胞形態を紡錘状形態から多数の突起を持つ神経細胞形態に誘導すること」を解決することができた。この条件検討のためにROCK阻害の方法を様々に検討する必要があると考えていたが、至適条件を効率よく見出すことができたために次年度使用額が生じた。この次年度使用額は、分化誘導させた細胞の神経細胞機能の様々なイメージング手法を併用した実験的証明のために有効に利用する。
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