研究課題/領域番号 |
21K19949
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
大久保 範子 岡山大学, 社会文化科学学域, 准教授 (80620252)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 浮世絵 / 江戸時代 / 信仰 / 庶民文化 / 力士 / 相撲 |
研究実績の概要 |
今年度は国内で実見での作品調査を行う予定であったが、新型コロナ感染症の流行のため活動が制限された。そのためオンライン公開がされている資料や文献調査を中心とする研究に切り替えるとともに、相撲以外の江戸の庶民信仰についても広く先行研究の調査を行った。相撲に関する研究でとりわけ注目したのが力士の手形に関するものである。現代において力士の手形は魔除けの意味を持つ縁起物としてもてはやされるが、その由来や成立は判然としていない。文政期(1818-1830)には朱の手形を押す力士の浮世絵が描かれていることからこの頃までには力士の手形を配る風習が生まれていたことがうかがえる。調査した文献・資料にも明和期(1764-1772)以降力士の手形が付せられているるものが散見されるが、共通するのはいずれも巨人力士と呼ばれる長身の力士たちであり、当初はその並外れた大きさを記録するために手形を押したと考えられる。江戸時代の文献にも歴代の巨人力士に関する記述が見られることから、相撲における巨人は重要なテーマであった一方で、いつから手形が魔除けの意味を帯びはじめたのかについては明確な結論を得ず、継続した調査が必要である。庶民信仰に関する作品では、町人文化の隆盛と浮世絵の板行数の拡大に伴い、鑑賞だけではない実用のための作品や、双六・玩具絵など多様な作例が収集できた。流行病など疾病に関する作例には、病除けや回復に向けての神仏信仰を示す作品が含まれる。一方で神道・仏教・儒教等が生活に根ざしてゆく過程で混淆とともに通俗化が進み、神仏に対する畏れにとどまらない親しみのようなものも作品には認められ、極めて多様な展開がうかがえた。このような作例が生み出された背景や当時の信仰の形について、文献調査も並行して行い、いくつかの作例をピックアップした上で研究期間中に報告書の作成を目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
文献・史料調査は順調に進んでいる一方で新型コロナ感染症の流行により実見調査が制限を受け、想定通りに進まなかった。しかしながら、江戸期の庶民信仰に関わる浮世絵へと研究対象を広げ、オンライン公開されている資料やデータを積極的に収集することで研究成果へとつなげる準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き文献・資料調査を行い研究を進める。デジタル資料を積極的に用い、研究成果へ結びつけていきたい。また申請時に予定していた力士の表象に関する研究に加え、2022年度は江戸時代の庶民信仰に関わる他の画題についても調査を進めるとともに、研究協力者を組織し研究報告書の出版を目指す方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
図書館・博物館等での閲覧による文献・史料調査を中心に行ったため、書籍をはじめとした物品購入をほとんど行わなかった。文献については研究に継続して必要となるものを精査中であり、2022年度はまとまった形での購入を考えている。その他物品に関しても適宜購入していきたい。また、新型コロナ感染症の影響で調査に制限を受けた現地調査も状況に鑑み積極的に行っていきたい。
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