本年度は前年度に引き続き、言語能力のある生物と無い生物の思考能力・概念能力の違いに関する考察を続けた。さらに、非言語行動をもとに解釈することができる内容を特徴づけることを目指した。そのために、概念相対主義に関わる議論に取り組んだ。概念相対主義の議論は概念能力の多様性に関連する。さらに、概念能力が異なるといえるための規準に関わる議論も含まれる。 第一に、概念相対主義に関するこれまでの議論の整理と批判的な考察を行った。そしてその成果を「私たちとは完全に異なる概念の枠組みについて――真理と翻訳の観点から」として雑誌論文に公表した。さらに、これまでの議論の捉えなおしも行った。これまでは、概念相対主義が擁護できるか否かという論点で議論が積み重ねられてきたが、それらの議論を、概念相対主義の擁護可能なテーゼと、擁護不可能なテーゼの区別を行うための議論として捉えなおした。そして、擁護可能なテーゼをもとに、理解可能なタイプの概念能力の多様性が確認された。 第二に、概念相対主義に関するこれまでの議論を踏まえたうえで、概念能力の多様性の一バージョンとして、言語能力のある生物と無い生物の思考能力・概念能力の違いについて考察した。そして、非言語行動をもとに理解することができる思考内容の特徴づけを行った。それと同時に、そのタイプの概念の多様性が、概念相対主義批判に当たらないような、理解可能なタイプの概念の多様性であることを明らかにした。
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