研究課題/領域番号 |
21K19956
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
持地 秀紀 上智大学, ヨーロッパ研究所, 特別研究員 (60908846)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | ベルクソン / コレージュ・ド・フランス講義録 / 直観論 |
研究実績の概要 |
二年目は、前年に引き続き、ベルクソンに固有の哲学史観を形成する原理であるところの、彼の直観論について研究を進めた。前年の研究で明らかにしたように、ベルクソンの直観論には、対象の直接認識に関する側面と、作品の創造に関する側面とがある。彼にとっての哲学史とは、この直観を原理とする、哲学者による作品創造の歴史として捉えることができる。ところで、ベルクソンは著作の随所で、「作文(composition)」についての独創的な理論を提示している。作文とは、思考を言葉で表現することであるが、彼はこの作文のイメージに基づいて独自の「直観」の概念を形成していったと考えられるのである。そこで今年度は、彼が「作文」や「書くこと」について語ったテキストを調査・整理し、思考を言葉にすることの意義がどのように捉えられているかについて探究した。この研究によって、ベルクソンを言語に対して批判的な哲学者と見ていた従来の研究とは異なる見解が獲得できた。すなわち、たしかに初期のベルクソンは言語に対して批判的な立場をとっていたが、独自の哲学史観と直観論が形成されていくにつれて、彼は直観を言語化することの意義を次第に積極的・肯定的に捉えるようになったのである。この研究成果を、「思考を言葉にすること――ベルクソン哲学における作文の問題」と題して学会で発表した。今後の研究では、ベルクソンにこのような言語に対する態度の変化を生じさせた要因が何であったかを、特にコレージュ・ド・フランス講義録と関連付けて、明らかにさせたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ベルクソンに固有の哲学史観が直観を原理としており、この直観が作品の創造や思考の言語化といった問題と深くかかわっていることまでは明らかにすることができたが、その直観論の形成とコレージュ・ド・フランス講義録で展開された哲学史の議論との連関を詳細に分析するところまでは至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では四つのコレージュ・ド・フランス講義録を調査対象としていたが、ベルクソンの哲学史観が展開されているのは特に『時間観念の歴史』と『自由問題の進化』においてである。とりわけ『時間観念の歴史』で展開される哲学史の議論は、『創造的進化』第四章との深い連関が認められ、そこにこそ、ベルクソンに固有の哲学史理解があると考えられる。そこで今後は、少なくとも、この『時間観念の歴史』における直観と言語(学説)の関係を研究対象として、ベルクソンの哲学史観の特質を彼の直観論と関連付けて究明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス拡大の影響により、当初参加を予定していた学会がオンライン開催となり、予定していた旅費の使用がなくなったため。
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