本研究は、20世紀フランスの哲学者ジル・ドゥルーズを中心に、同世代以降の哲学者たちの思想を共同体論の観点から検証し、総合的に捉えなおすことを目的としている。最終年度にあたる今年度は、前年度に引き続き資料調査を行い、コーパスを補完するのみならず、これまでに得た知見をとりまとめる作業を中心に行った。 その成果は大きく三つに分類することができる。まず一つ目は、資料調査に関するものである。新型コロナウィルスの流行や渡航費の増大により延期していたフランスでの資料調査も行い、未刊行の初期ドゥルーズの書評などを閲覧することができたため、これらの分析を行った。二つ目は、翻訳に関するものである。ドゥルーズの芸術論に関する研究書、ドゥルーズの共同体論との関連が深いロラン・バルトの伝記、ジャン=リュック・ナンシーに関する論考を翻訳した(うち前者二つは共訳)。これらはいずれも近日刊行予定である。三つ目は、二つの成果をもとに、ドゥルーズ=ガタリの主著のひとつである『アンチ・オイディプス』を対象とし、欧米言語文化学会にて「ドゥルーズ=ガタリの家族主義批判について」という題名で、ドゥルーズ=ガタリにおける「家族」のテーマについて論じた。そのほか、日仏哲学会シンポジウム「マルセル・プルーストと哲学(者たち)」では、「不朽の生成ーープルーストと「感覚」の論理」と題し、共同体を考える上で不可欠な「身体corps」概念との関連の深い「感覚」について発表を行った。さらに、映画論においてドゥルーズがミュージカル映画について言及した箇所を分析し、身体性と政治性の接点について論じた「「世界の運動」への夢」(『立教映像身体学研究』、2023年)では、共同体論との関連についても指摘を行った。
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