研究課題/領域番号 |
21K19959
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
宮川 麻理子 立教大学, 現代心理学部, 助教 (50908259)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 舞踊学 / 舞踏 / パフォーマンス研究 |
研究実績の概要 |
本年度は、これまでの研究(「戦後の舞踊作品における「黒人の表象」を巡って」『舞踊學』第44号、2021年、pp. 20-31など)をベースに、黒人文化の舞踊への影響を調査した。主に早稲田大学演劇博物館が所蔵する戦前の舞踊や演劇に関する雑誌を調査し、新たに戦前の黒人の表象を見出した。また、戦後の雑誌『黒人研究』等を調査しながら、日本人の黒人への意識の変遷を追った。 戦後のアメリカ文化センターの開催したモダンダンスの講習会については未だ具体的な講習内容は調査できていないが、GHQ/SCAPの記録を国会図書館で閲覧し、CIE図書館で行われた文化行事について調査を行った。 また、舞踏が登場した前後の舞踊界を調査する絶好の機会として、早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点の2022年度公募研究課題「江口博旧蔵資料にみる戦時下から戦後の舞踊」に共同研究チームとして採択された。ここでは、戦前から戦後にかけて活動した舞踊批評家である江口博の旧蔵資料(舞踊関係舞台写真・新聞記事スクラップ他280点)を調査し、昭和期を通じた日本の舞踊界に関する研究成果を発表する予定である。本研究課題である舞踏誕生のバックグラウンドを再考する上で重要な研究になると想定される。 このほか、舞踏とテクストの関わりについて、大野一雄舞踏研究所および土方巽アーカイヴでの資料調査(主に蔵書と創作ノート/舞踏譜の閲覧と分析)を行った。これらの調査から、美術雑誌『みづゑ』への書き込みや、アンリ・ミショーやガストン・バシュラールに関連する蔵書が発見された。これらの一部についてはスキャンを行い、大野一雄による書き込みが読めるようデータ化した。『みづゑ』やミショーへの関心は、大野、土方とも持っており、これらの共通項を手がかりとしながら、両者のアプローチの差異について今後分析していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国内での資料調査、とりわけ舞踏の創始者二人に関しては、予定通り調査を進め、蔵書の閲覧・調査を行った。この中から、大野一雄が重視していたガストン・バシュラールをはじめ、美術雑誌『みづゑ』への書き込みなどから、大野が活動の初期から美術作品に大きなインスピレーションを得ていたことが改めて確認された。この影響がどのように踊りに変転していくのか、今後より詳細な分析を行う予定である。土方巽についてもアーカイヴにて資料を閲覧し、蔵書と舞踏譜の調査を行った。これらの結果から、特に土方と大野の双方に登場するアンリ・ミショーを中心に取り上げて、両者のアプローチの違いを分析するという目処がついた。 黒人文化の舞踊への影響については、早稲田大学演劇博物館等の雑誌記事の調査を行い、以前の研究成果「戦後の舞踊作品における「黒人の表象」を巡って」以外にも戦前に黒人の表象があったことが確認された。今後さらに詳細を検討していく。 「やや遅れている」とした理由は、アメリカ文化センターで行われたモダンダンスの講習会について、詳細な内容が明らかになっていないためである。アメリカ文化センターの前身であるCIE図書館の活動は国会図書館で調査を行ったが、今後はアメリカン・センターやアメリカのNational Archives等、アメリカ文化センターについての資料の所蔵先を突き止め、調査する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
まずはアメリカ文化センターに関連する資料(とりわけ当時のモダンダンスの講習会に関わる告知文書や内部資料など)の所蔵先を明らかにし、具体的な活動内容を検討する(令和3年度は、海外渡航が難しかったためアメリカでの調査は実現していない。所蔵先の目処がついたら渡米して調査を行う予定である)。 また、早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点の2022年度公募研究課題「江口博旧蔵資料にみる戦時下から戦後の舞踊」がスタートするため、江口博の資料を調査しつつ、戦前から戦後にかけての舞踊の状況を明らかにする。ここでとりわけ、黒人の表象の痕跡を丹念に探しながら、戦後の舞踏誕生の背景となるモダンダンスの実態を詳細に検討する予定である。 令和3年度に調査を行った大野一雄や土方巽の蔵書や書き込みの分析も並行して進めつつ、未見の資料もあると想定されるので、その調査を引き続き行う。これらをベースに、大野と土方へのアンリ・ミショーのもたらした影響やアプローチの違いについて論文にまとめ、発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品費の額が、スキャナー購入の費用などでオーバーしたものの、国内での学会が全てオンライン開催となったため旅費が大幅に余った。また、調査にかかる人件費・謝金も本年度は支出がなかった。 これらについては、次年度に予定されている海外渡航での調査、国内での学会参加費、および調査にかかる人件費・謝金、書籍の購入費用に充てる。
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備考 |
宮川麻理子「〈らへん〉にあったものとこれからあるであろうもの 」Real Tokyo, 2022年3月11日(劇評) 宮川麻理子「平原慎太郎の2017ー2020年度の活動について」『The Saison Foundation Annual Report 2020(2020年度事業報告書)』公益財団法人セゾン文化財団、pp. 38-39、2021年10月(報告書・依頼あり)
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