カントやフィヒテに限らず、哲学的枠組みに定位した自我論研究は、しばしば難解で抽象的な議論という印象を与える。それに対し、「自己規定の円環構造」という観点からアプローチした本研究は、「自我」概念の内実を、我々の現実的な意識との連関において捉え、再構成することに重きを置く。 したがって、本研究の成果は、純粋で根源的な原理として「自我」を論じる傾向にあった従来のカントやフィヒテの自我論研究と比しても、より包括的な文脈から「自我」の内実に光を当てた点で、独自の意義をもつと評価できる。また「自我」や「意識」研究としても、哲学的な枠組みに限定されず、他の学問分野との接合可能性を秘めたものであると言える。
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