研究課題/領域番号 |
21K19964
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
藤本 庸裕 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (20905765)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | チベット仏教 / 伝記 / チャク・ローツァワ / チュージェペル / ダルマスヴァーミン |
研究実績の概要 |
本年度は、『チュージェペル伝』全17章のうち、おおよそ第1章から第3章までの翻刻と暫定的な校訂テキストおよび英訳を作成し、関連テキストの調査を行なった。 まず本研究では、ゲッティンゲン大学図書館に所蔵されているラーフラ・サンクリティヤーヤナ将来の写本のデータに加えて、近年TBRC(現BDRC)がインターネット上で公開した写本のデータも参照した。後者の写本はデプン寺の所蔵とされるものであり、この写本によって、従来不鮮明であったテキストの問題のいくつかが解決できた。例えば、従来は散文と見なされていた箇所が実は韻文であったこと、また、ゲッティンゲン図書館所蔵の写本では縮字体となっている箇所の多くがデプン寺所蔵の写本では通常の字体で書かれており、後者のほうが文意が明瞭な場合の多いことなどによって、従来のゾンツェによる校訂テキストと、ゲオルグ・ルーリッヒなどによる先行訳の解釈を大幅に修正することができた。 また、『チュージェペル伝』にはナーガールジュナの『ラトナーヴァリー』や大乗経典からの引用、ションヌペルの『青冊』や他の仏僧の伝記とのパラレルのあることが指摘されていたが、本研究では、他にも密教文献『ヴァジュラーヴァリー』にヴァイシャーリー市のターラー像に関する平行話を見出すことができ、当該部分の校訂テキストの作成が大いに進展した。 以上の解読作業から、従来ゲッティンゲン大学図書館の写本のみに基づいて言われていた『チュージェペル伝』の特徴が、デプン寺所蔵の写本には当てはまらない可能性が生じている。この点については残りの章の翻刻を通して慎重に検討していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では第1章と第2章についてのみ校訂テキストと英訳を作成する予定であったが、既にルーリッヒによる全訳があり、またゾンツェによる校訂テキストが比較的精度が高いこともあって、現在第4章の途中まで解読を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
『チュージェペル伝』は当時の口語と思われる難解なチベット語で書かれており、インドやネパールの俗語と思しき転写語も存在するなど、未だに解釈の不明な文章や辞書に載っていない単語が少なくない。今後は、そうした文章の解明に努めるとともに、残りの章について正確な翻刻と暫定的な校訂テキスト、現代語訳の作成を進め、そして関連テキスト、特にチベット僧の伝記類(rnam thar)における類似話の収集を予定している。 また、ルーリッヒによる『チュージェペル伝』の最初の英訳が刊行されてからこの半世紀の間、チベット学の大幅な進展と電子化によって膨大な数のチベット文献が利用可能になり、『チュージェペル伝』のルーリッヒ訳に言及している研究は膨大な数にのぼる。それらの中には『チュージェペル伝』に現れる難解な単語の解釈や、平行話に関する重要な指摘をもあり、今後はそうした研究を網羅的に調べ上げる作業にも取り組みたいと考えている。
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