研究課題/領域番号 |
21K19970
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
吹田 隆徳 佛教大学, 総合研究所, 特別研究員 (70910751)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 薬師経 / 灌頂経 / 聞名思想 / 誓願 / 浄土経典 / 大乗仏教 / 浄土教 |
研究実績の概要 |
本年度は『灌頂経』の現代語訳と諸本の異同を記した資料の作成を行った。作成に際して、『灌頂経』における薬師仏の誓願には聞名思想や女人転成が説かれないなど、既に指摘されているものも含まれるが、多くの点で違いが生じていることを確認した。 特に顕著な違いを見せる聞名思想を中心として諸本の分別を行い、研究資料としてABCそれぞれの群に分けた。そして、それらの間に見られる聞名思想の有無に成立史的段階を見出し、先行研究を踏まえた上で、《薬師経》は大きく三部に分けて研究すべきことを確認した。 資料の作成は成果として報告するには地味ではあるが、大乗経典は年代の経過に伴って増広されるのを常としており、新古の層を混同せずに、思想的研究を実行するためには不可避なプロセスである。そのなかで特に成立史的段階が見出されたという点は、上述の混同を避け、次の段階で行う思想的研究に正確さをもたらすものである。 諸本に目を通した上で、《薬師経》研究の可能性について述べておくと、比較的短い経典である《薬師経》は全体像の把握が容易であり、訳出年の明らかな漢訳も複数現存することから、思想的加上の痕跡をたどり易く、浄土教の展開を調査する上で良い研究対象となるだろう。尚、作成した資料の公表は来年度となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『灌頂経』を中心とする《薬師経》諸本対照と現代語訳について終了することができている。これは当初の予定通りである。本研究の試みは思想的展開の跡づけにあるため、例えば、諸本A(7世紀)に説かれていながら、諸本B(5世紀)には欠落する、といった条件をもつ思想の選定を行わなければならない。諸本を対照するなかで、こういった条件に合致する浄土思想を二つほど選定できてはいるが、データはできるだけ複数の視点から抽出される方が望ましい。それゆえ、さらなる思想の選定が必要となってはいるものの、研究自体はおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
次なる段階として《薬師経》の思想的研究を行う。まず最初に聞名思想から取り上げる予定である。これは浄土教を研究する上での重要度が他よりも高いこと、また《薬師経》諸本のあいだで最も顕著に異同が認められることによる。 《薬師経》は薬師仏の功徳による現世利益を説き、その利益を享受する方法として聞名を説く。しかし、薬師仏の十二誓願を例に説明すると、『灌頂経』以外の資料では最大7つの誓願に聞名が説かれているが、『灌頂経』のそれにはまったく説かれていない。『灌頂経』が5世紀、その他の資料が7世紀以降の資料である点からして、十二誓願における聞名思想は後代の加上ということになる。そこで、今後の研究としては、聞名思想が加上された大まかな年代、ならびに加上された理由の解明を試みていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた諸学会が延期となり、予定していた旅費を消費することができなかったためである。ここ数年延期が続いている点と、当初予定していた図書購入費では不足しつつある点を考慮して、来年度も中止となった場合には図書購入費として使用する。
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