研究課題/領域番号 |
21K19971
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
向 静静 立命館大学, 立命館アジア・日本研究機構, 研究員 (30910682)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 『傷寒論』 / 流行病 / 古方派医学 |
研究実績の概要 |
2021年度において、主に近世日本における流行病とこれへの対応という視点に立ち、漢代医家・張仲景による『傷寒論』が隆盛した原因を検討した。 近世日本の『傷寒論』の註解・刊行ブームは、従来の医学の「温補」などに基づく治療法が、当時の流行病に対応できなくなっていたことを重要な契機としていた。とくに、近世中期以降、流行病の周期の短縮によって、より「実効」性がある治療法が求められるようになり、こうした傾向は加速していく。このように、古方派医家らが『傷寒論』に注目したことで、そこに掲載されている薬剤や、『傷寒論』にもとづく「汗・吐・下」という「排毒」の三法は、近世日本の流行病の治療において広く応用されていった。 換言すれば、医家らが『傷寒論』をはじめとした医書に注目した背景には、当時蔓延していた麻疹・痘瘡・腸チフス(熱病)・風邪といった流行病、またその治療法をめぐる模索があったのである。一方、彼らの「親試実験」に基づく医療実践の成果として、より多くの『傷寒論』註解書・解説書が近世日本で蓄積された。なかでも、中川修亭『傷寒発微』、原南陽『傷寒論夜話』、和田東郭『傷寒論正文解』などがあげられる。 このほか、次年度の研究実施のための料調査を行った。近世日本で註解された『傷寒論』関係書は、近代以降中国へと還流され、広東や上海で刊行・編纂された。近世日本医家らが註解した『傷寒論』関係書の刊行に対し、中国医家らが下した認識・評価を、当時の新聞・医学雑誌・医家の医書・日記などの資料を蒐集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において、近世日本における『傷寒論』の受容・展開について検討を行った。おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
近世古方派の医書研究は、その後、どのような展開を見せたのであろうか。また、近世から近代への時代を経て、いかなる変容を見せたのであろうか。これらの課題について研究を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究が扱う史料の多くは、全国各地の機関に未刊行のまま散在しているため、史料調査にかかる旅費が経費の中心となる。東京方面・岐阜方面での調査回数が多いのは、国立国会図書館、北里大学東洋医学総合研究所、順天堂大学医史学研究室、静嘉堂文庫、尊経閣文庫、内藤記念くすり博物館等、関係史料を所蔵する機関がこれらの地域に集中しているからである。 また、医学史関係図書の購入や、英文論文の校閲にかかる業務委託費も計上している。
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