ゲーテとロバート・ボイルとの関係を探求するため、前年度は両者に共通する「旅行」を通じた思想の発展を研究した。両者ともイタリアへのグランド・ツアーを行っており、それぞれにとって学術の大きな転機となっていた。旅を通じて学術を発展させることは、古来よりプラトンのアレクサンドリアへの旅やアリストテレスの小アジアへの遠征の帯同のようによくみられたことである。しかし、ヨーロッパのグランド・ツアーは、大きな思想潮流の中から生まれ出ており、それが他とは異なる大きな特徴となっている。また、科学においても旅を通じて、あるいは旅を比喩として、多くの概念や方法論、発見、発明が見いだされていた。こうした前年度の成果を踏まえ、本年度は、当時の思想潮流と密接であり、グランド・ツアーが大きな舞台にもなっていた学術運動を取り上げ、ゲーテとボイルの関係を明らかにするための時代背景をより明白にする研究を行った。特に、ディレッタンティズムに焦点を当て、そこからいかに17世紀以降の学術が勃興してきたのかを考察した。通常、ディレッタンティズムは、芸術愛好や好事、道楽などと解され、学術運動の一つとはみなされていない。また現代においてもディレッタンティズムは、否定的な意味合いを含意するものとも解されている。しかしながら、ディレッタンティズムは、17世紀以降称揚された啓蒙主義の重要な到達点であるとみなされえ、実際に様々な学術的成果をもたらしている。その内実について調査を行い、成果を論文としてまとめ、「阪神ドイツ文学会」の機関誌「ドイツ文学論攷」に投稿した。
|