研究課題/領域番号 |
21K19977
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森田 俊吾 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (70909910)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | フランス文学 / リズム / 話し言葉 / オーラリティ / 文学理論・批評 / 自由詩 / 韻律分析 / アンリ・メショニック |
研究実績の概要 |
本研究は、第二次世界大戦以降のフランス詩人たちを主な研究対象とし、これまで研究・改良を行ってきたアンリ・メショニックのリズム分析手法を用いて、彼らの詩作品を分析することによって、その時代の詩における話し言葉やリズムの重要性を明らかにするものである。自由詩が主体となった現代詩におけるリズム要素 (統語法、隣接強勢、発声時の強勢、音素連鎖、句 読法、改行等) をメショニックの分析手法を用いることで、旧来の韻律法に比べて、詩的テキストにおけるオーラルな側面を浮かび上がらせるのに適した分析手法である。上記の研究計画の下、本年度は1930-40年代を代表する現代詩人のうち2人を扱い、研究成果を得ることができた。 ・アンドレ・フレノーの研究とその成果発表(フランス現代詩研究会2021年7月例会、2021年7月29日開催):フレノーの詩は、J=P・サルトルが「絶望ではなく、非-希望から作られた詩」と評したように、とりわけ実存主義との関係から哲学的に解釈されてきた。本発表では、彼の詩をワークショップ形式で読むことを通じて、彼が使用する特殊な統語論的配置によって表現される語り口があることを指摘した。 ・ジャン・フォランの研究とその成果発表(抒情詩研究会、2022年3月21日開催):フォランの詩は、既存の研究で「非人称的抒情」と評される通り、一人称がほとんど登場しない散文的な性質を持つ詩が多い。本発表では、彼の詩における子音連鎖に着目することで、彼のオーラルな側面を浮き彫りにした。また、ボードレールからヴァレリーへと至る「純粋詩」という傾向に対置される形で、フォランがボシュエ以来の「純粋雄弁」の復権を目指していたことも発見し、彼のオーラリティへの関心を裏付けるものとなった。 これに加え、メショニックのリズム分析手法そのものに関する論文を執筆し、日本フランス語フランス文学会の論集に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献を海外から購入し、各詩人の作品分析を行っていくことができた。草稿資料など現地でしか手に入らない文献が必要になる場合は海外での実地調査を行う予定でいたが、今年度は新型コロナウイルス感染拡大の観点から、渡航を控えるに至った。実地調査が必要な詩人は、2年目以降の調査に回すことにした。
本研究では、採用期間を通じて合計4人の詩人を扱う予定でいた。当初の予定では、後の詩人の世代に影響を与えた詩人としてボヌヴォワ、プレヴェール、ポンジュ、ギュヴィックを想定していたが、最初の3ヶ月間のコーパス収集・調査の過程で変更することも考慮に入れていた。結果的に、調査を進めていくうちにジャン・フォランとアンドレ・フレノーがオーラルな語りというものに与えた影響を論じる上で欠かせないものであると判断し、今年度は上記2名に関する研究を行った。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、フランスの現代詩人ギュヴィック、フランシス・ポンジュを中心に研究を行っていく。物質主義、オブジェクト主義と分類される詩人であることから、海外の同時代の傾向を持つ詩人の検討も進めていく。海外渡航の規制が緩和されたタイミングで、海外でのフランス国立図書館(BNF)・現代資料研究所(IMEC)を利用した調査を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に持ち越された研究費は、今年度の7月から8月にかけて、海外での実地調査を行う分に当てる。 2021年10月に予定していた海外での実地調査及びフランスでの研究発表が、新型コロナウイルス感染の観点から、渡航が中止となった。このため、旅費を使うことができなかった。 今年度も感染状況次第ではあるが、フランスでは現状渡航規制緩和の状態が継続しているため、渡航滞在日を増やし、より調査を入念に行えるようにする。
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