戦時下において「日本科学」という概念が、広く文学者たちの言論活動に影響を与えていたことを明らかにした。具体的には、横光利一『旅愁』や『微笑』など、後期の小説作品について、普遍的なものと特殊なものの相克という主題が見いだされ、その主題が「日本科学」をめぐる同時代言説と密接に関わっていることを示した。 「日本科学」は、戦中から戦後にかけて持続的に討議された知のあり方であり、文学者たちも巻き込んで多くの討議が交わされていたが、その文化的な拡がりを検討することは、断絶が指摘されがちな戦中と戦後の思想的連関を、より立体的に捉え直す景気となると結論づけた。
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