本研究は、チェコ出身のフランス語作家ミラン・クンデラ(1929年-)の文学論、とくに小説をめぐる思索のなかに、19世紀後半から20世紀前半にかけてのフランス文学の展開を特徴付けているモデルニテ(近代性)の意識が見て取れることに着目し、クンデラの小説理念を解明しようとしたものである。モデルニテは新しい表現形式の追求であると同時に、近代的であろうとする芸術家の態度でもある。しかしクンデラの見方では、今日、近代は危機に瀕しており、新しいことと近代的であることは両立しない。そのことがクンデラの小説理念を両義的なものにしていることが、明らかになった。
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