研究課題/領域番号 |
21K19987
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
林 愼将 九州大学, 人文科学研究院, 助教 (00908171)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | 生成文法 / ラベル / 一致現象 / 比較統語論 |
研究実績の概要 |
本研究は、人間言語に見られる一致現象の包括的な説明を目指し、現在の理論で主流となっている一対一対応の関係を結ぶ統語操作Agreeだけでは一致現象を捉えるのに不十分であることを明らかにし、解釈部門であるSMインターフェイスで一致現象を説明することを目指したものである。 初年度の2021年度は、バントゥー諸語やフアラガケチュア語等、現在標準的に仮定されているAgree分析からは説明が難しいと思われる一対多の一致を示す言語に焦点を当て、インターフェイスの解釈条件からその一致現象を説明した。具体的には、併合により構築された集合構造が持つラベルがインターフェイスでの解釈への指示を与えるという仮定の下、一致の情報を持つラベルが与えられた集合に含まれている要素も、ラベルの手がかりを基にSMインターフェイスにおいて二次的な一致が可能であることを提案した。また、SMインターフェイスとC-Iインターフェイスの計算は、どちらも併合が作り出す集合構造の持つ原初的な包含関係に基づくものであり、集合全体とその内部の要素を結び付ける役割としてラベルが媒介しているという仮説の下、いずれのインターフェイスにおいても、ある要素がラベルとなっている要素なのか、それとも単に関係のあるラベルを持つ集合に含まれているだけの要素なのかで解釈の随意性が異なることを明らかにし、C-Iインターフェイスにおけるwh演算子のスコープ解釈と、SMインターフェイスにおける格の随意性が統一的に説明できる可能性を追求した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来は、格や一致の情報は統語論においてAgreeによって保証されるものだとされていたが、格と一致の統語的ステータスはラベルや外在化の際に引き出せるという分析を提出し、学会発表を行った。また、ラベル理論の中ではラベルが構造の必要条件と考えられていたのにもかかわらず、ラベルがインターフェイスでどのように解釈されるかに関してこれまで具体的な検討はあまりなされていなかったことに対し、ラベルを中心とした解釈メカニズムを提案し、格と一致について、wh演算子のスコープと統一的に分析できることを示し、学会発表及び著書としてまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる2022年度は、格がコピー概念に及ぼす影響を調査する。名詞要素の連鎖条件等にあるように、これまでは、要素が適格なコピー関係を持つために格が必要と考えられてきた。一方で、本研究が正しければ、格はインターフェイス以降にしか働かないため、統語論内でコピーとみなされる要素には格の情報は無いと考えられる。Chomsky 2021においてコピー関係を保証するために提案されたForm Copyの適用の手がかりとして、格が何ら役割を果たしていないことを明らかにし、従来の連鎖条件も外在化の際の規則であると考えることで、格は統語論内で扱われるべきものではなく、SMインターフェイスにおける概念である見方を強める方策を推進する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は疫病の蔓延の影響を受け、国内外への出張ができなかったことが挙げられる。予定していた国内外出張は2022年度に延期とし、条件が整い次第再開する予定である。その間、ウェブ会議システム等を活用して研究者との意見交換を行っていく。
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