研究課題/領域番号 |
21K19989
|
研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
細野 香里 東京都立大学, 人文科学研究科, 助教 (40906822)
|
研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 扇情小説 / 南北戦争 / 19世紀アメリカ大衆文化 / 領土拡張 / 奴隷制 / 感傷主義 / 米墨戦争 / 出版文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀アメリカ文学における感傷主義と扇情主義の差異を改めて明確化したうえで、人種的他者表象と地理的表象に注目しながら、扇情主義/扇情小説がいかにアメリカの領土拡大の欲望に寄与し、あるいは批判を加えてきたかを明らかにすることを目的とする。2021年度は、計画を微修正し、この研究の前提となる感傷主義と扇情主義の定義を精査する作業にまず着手した。そのために、家庭小説の代表作である『若草物語』の書き手として知られながら、匿名やペンネームで扇情主義的スリラー作品を創作していたルイザ・メイ・オルコットを研究対象に加えた。特に、オルコットの扇情主義的中編小説「闇夜のささやき」を取り上げ、本作がいかなる意味で扇情主義的であるのか、ゴシックや犯罪小説の流れを汲んで成立した扇情小説ジャンルの従来の定義を再検討しながら分析した。この成果を東京都立大学人文科学研究科発行『人文学報』第 518-13号にて発表した。 また、南北戦争以前期の扇情主義が南北戦争後の文学に引き継がれている可能性を検討するために、マーク・トウェインの後期作品『間抜けのウィルソン』(1894)に注目し、感傷小説や奴隷体験記からの影響を指摘されてきた本作品における扇情主義的要素を分析し、東京都立大学英文学会で口頭発表を行った。さらに、2022年度研究計画の下準備として、トウェインとチャールズ・W・ストダードのハワイ関連著作の比較分析の成果を英語論文にまとめた。本論文は、日本英文学会発行の Studies in English Literature vol.63に掲載された。これらの研究と並行して、当初の計画通り、ジョージ・リッパードの辺境小説群における扇情主義とアメリカ拡大主義の関わりを検討するため、必要資料の入手や先行研究の整理を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は計画を微修正し、研究の前提となる感傷主義と扇情主義の定義を精査する作業にまず着手した。また、コロナウイルス感染症流行のために海外渡航が難しくなったため、アメリカ合衆国で行う予定であった資料調査を行うことが困難になった。そのために、本研究は当初の計画よりやや遅れているといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、2021年度に収集・整理したジョージ・リッパード関連の一次・二次資料の分析を継続して行う。現地資料調査も、状況を見極めて実現させたいと考えている。2022年5月には、日本アメリカ文学会東京支部5月例会の分科会にて現時点でのリッパード研究の成果を口頭発表する予定である。その後はフロアから得た知見を反映させて議論を磨いたうえで論文化し、査読付き学術誌に投稿することを目指す。 また、並行してエドガー・A・ポー(1809-1849)の『アーサー・ゴードン・ピムの冒険』(1838)、ハーマン・メルヴィル(1819-1891)の『タイピー』(1846)、チャールズ・W・ストダード(1843-1909)の1860年代の太平洋紀行文群におけるカニバリズムとホモセクシュアリティの表象分析に着手する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症流行に伴う海外渡航の制限が続いたため、アメリカ合衆国で行う予定であった資料調査の実施が困難になり、本研究の必要経費の中で大きな割合を占めていた海外出張旅費の使用機会がなくなった。次年度は、感染症流行の収束やワクチン接種の普及による規制緩和により、海外出張・国内出張の機会を得られる可能性があるため、その分に充てることを考えている。状況によっては、資料の取り寄せ費用や、必要資料購入費、資料整理のための物品費に使用する計画である。
|