2022年度は、2021年度に収集・整理したジョージ・リッパード関連の一次・二次資料の分析を継続して行った。特にフィラデルフィアでの人種暴動を主題としながらも、同時代の拡大主義を背景とする作品The Killers (1849)について集中的に分析を行い、日本アメリカ文学会東京支部5月例会分科会において、それまでの成果を「ジョージ・リッパードの都市人種暴動譚における地理的想像力」として口頭発表した。発表時は研究途上の段階であったため、それ以降に得られた知見を加え、議論を洗練させ、適切な媒体上に論文として公表することを目指している。さらに、8月にはアメリカ合衆国ペンシルベニア州のフィラデルフィア歴史協会において現地資料調査を実施し、リッパードが編集人を務めた週刊新聞The Quaker City Weeklyの1849年発行分を閲覧した。データ化して持ち帰った資料の解析が今後の課題となるが、量が膨大であり、内容も多岐にわたるため、時間を要することが見込まれる。リッパード研究と並行してチャールズ・W・ストダードの1860年代の太平洋紀行文群におけるカニバリズムとホモセクシュアリティの表象分析を行った。加えて、本研究の時代設定とは外れるものの、アメリカ文学史における扇情主義的要素の通時的発展を検討するために、ジャック・ロンドンのハワイ諸島に取材した作品群を参照し考察を行った。特に、ネイティブ・ハワイアンのハンセン病患者を主題とした “Koolau the Leper”における身体表象に着目し、この成果を日本語論文「扇情的な身体――ジャック・ロンドンの「ハンセン病患者クーラウ」における人種と病」としてまとめ、 東京都立大学人文科学研究科発行『人文学報』 第519-13号にて発表した。
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