本研究の目的は、「非制限修飾する数詞の統一的な分析は可能かどうかを検証すること」である。 最終年度である2023年度は、数詞を強意表現だと提案した分析を論文として発表するとともに、この分析のさらなる発展を試みた。まず、固有名詞・代名詞を修飾する数詞に関して新しい観察が得られた。具体的には、数詞が「1」とそれより大きな数詞の場合で振る舞いが異なることがわかった。例えば、「ジョン1人」は焦点表現の「だけ」と共起できるが「も」とは共起できない。一方、「ジョンとメアリー2人」はどちらの焦点表現とも共起可能である。典型的な強意表現である「自身」はどちらの焦点表現とも共起可能であることから、「1人」のような数詞には特有の分析を加える必要があることが明らかになった。これら一連の研究成果を論文としてまとめ発表した。 これに加え、分析を発展させた。強意表現「自身」を含んだ「ジョン自身」は、代替指示対象が固有名詞の指示対象に関連している。しかし、「ジョンとメアリー2人」の代替集合は固有名詞の指示対象と関連する必要はない。また、代替指示対象に対し、数詞が表す数の制約を受けるため、代替集合の要素は「カナとケイト」など2人である必要がある。この特性を捉えるために、固有名詞を修飾する数詞は、入力された個体以外の誰かを返す「他者関数」のみと対立し、他者関数の出力である個体における単一体の数が数詞の表す数と一致する必要があると提案した。この結果について、本研究期間後ではあるが、国内学会での発表を予定している。 Solt(2009) は、英語において限定詞直後に置かれた数詞は非制限的な修飾し慣習的含みであると提案した。本研究では、日本語の固有名詞・代名詞を修飾する数詞は恒等関数であると提案した。これらは意味貢献の方法が異なるため、現時点では非制限修飾する数詞の統一的な分析はできない可能性が高い。
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