本研究課題では,文解析器と文法との関係性を明らかにするために,日本語のwh文において「文法性の錯覚」が生じるメカニズムを検討した。 まず,時間制限付き容認性判断課題を用いた実験によって,日本語のwh文において文法性の錯覚が生じるかどうかを検証した。その結果,日本語のwh文においても文法性の錯覚が生じつことが確認された。つまり,構造的に適格な位置に認可子を持たない非文法的なwh文であっても,構造的に不適格な位置に認可子を持つ文の方が,文中に認可子を持たない文に比べて容認度が高いことが明らかとなった。 次に,自己ペース読文課題を用いた実験によって,日本語のwh文において文法性の錯覚が生じるメカニズムを検証した。その結果,日本語wh文においては,非文法性に起因する記憶処理によって構造的に不適格な依存関係が構築されることで文法性の錯覚が生じることが示唆された。そもそも非文法な文においては,その非文法性によって読み時間の増大が生じると予測されるが,文法性の錯覚が生じる文においてはそうでない文に比べて非文法性が明らかとなる位置での読み時間が短かった。また,wh句に対する潜在的認可子が現れた時点ではなく,非文法性が明らかになった時点で,読み時間の差が観察されたことは,潜在的認可子の出現そのものではなく,非文法性が明らかになったことが文法性の錯覚を引き起こしていることを示唆している。 日本語のwh文において文法性の錯覚が生じるメカニズムとしては,非文法性が明らかになった後,記憶処理において文法的に許されない依存関係が構築されることでwh句が錯覚的に認可されることによって文法性の錯覚が生じると考えられる。
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