令和5年度は、以下の研究を実施した。 【童話作品の電子データ化】『赤い鳥』のコーパス構築に向け、昨年度に続き語種調査のための基礎データ作成に従事すると共に、誤データの修正や体裁を整える作業を行った。最終年度であることを鑑み、なるべく多くの作品を電子データ化することを目標に実施し、『赤い鳥』における鈴木三重吉以外の作家の童話56作品を電子データ化した。
【研究成果の発表】本年度はこれまでの調査を通して明らかになった『赤い鳥』の近代語資料としての価値について2023年度奈良教育大学国文学会で発表した。また、この内容を『奈良教育大学国文 : 研究と教育』に研究論文として発表した。具体的には、第三期以降の国定教科書と刊行期を同じくしていること、鈴木三重吉が「子供たちの手本」となるようにという創刊の理念に従って、言語選定意識を持って作品に手を入れていたと思われること、「子供のための芸術」を志向したことが大人たちに受け入れられ、教育現場を中心に子供たちの学習材として受容されたこと等から注目すべき近代語資料であり、紙面上において特徴的な表記がなされていたり、現代共通語とは異なるオノマトペが使用されていることなどを挙げ、近代語研究においてどのように位置づけられるかについて述べた。
3年間の研究を通して、『赤い鳥』のコーパス構築のための基礎データ(作品の電子データ)作成はおおよそ全体の1/2量を実施することができた。『赤い鳥』の複雑な誌面構成が要因となりOCRが上手く機能しなかったことが全体を網羅し得なかった理由として挙げられる。また、データを用いた語種調査からは、以下の3点を明らかにした。1)鈴木作品では、後ろの巻ほど和語が減少、漢語が増加している。2)和語の使用率は他作家の方が高い。3)外来語は使用数は多くないが、衣食住に関する語が多く、表記も揺れている。
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