本研究では半年間で、これまで行なってきたフィリップ・シドニーのソネット連作についての調査の不足部分を補う形で資料を収集し、それらに基づいたテクストの精読によって「主体」としての女性の可能性について考察した。本研究は2019年に日本英文学会東北支部大会のシンポジウム「英文学のなかの女性の声を再考する」における発表で取り上げた『アストロフェルとステラ』の中に登場する女性、ステラの声について更に調査を進めたものである。当該発表ではソネット連作内でステラが声を発していると考えられる箇所を複数取り上げ、テクストの再考を試みた。今回学会等で改めて口頭発表を行うことはかなわなかったが、学術論文を1本発表することができた。学術論文「 ‘Sweet said that I true love in her should find’ ―『アストロフェルとステラ』における女性の声」(『東北』55号)において、『アストロフェルとステラ』におけるステラの声に着目し、ペトラルカの『カンツォニエーレ』に見られるラウラの声と照らし合わせながら、ソネット内でステラに与えられた役割を読み解いた。 本研究開始当初は同時代の他の男性詩人によるソネット内の女性の声や、女性詩人の作品内に現れる男性の声も取り上げることで文化的側面からのテクストの考察を行うことまで視野に入れていたが、研究期間内では、残念ながらシドニーのソネット連作における女性の声のみを取り上げる形となった。同時代の他のソネットについても今後引き続き調査を行いたい。
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