研究実績の概要 |
本研究では、モンゴル語・中国語・日本語を対象に、音韻体系を形成する分節音の内部構造を明らかにすることを目的とし、特に阻害音と流音に関して音声的バリエーションも含めた音声事実を観察したのち、記述的・分析的妥当性の高い音韻表示の方法を探った。 2022年度は、モンゴル語・内蒙古語・中国語における語中有気音のVOT、前気音の実現、語中無気音の有声化の特徴を言語間で比較し、これらの特徴は中国語とモンゴル語の差が大きく、内蒙古語は中間的な様相を呈することを明らかにした。続いて、モンゴル語母語話者による日本語の阻害音の発音を分析し、モンゴル語からの母語転移および生理的要因により、日本語の発音においても帯気化や無声化が頻繁に起こっていることなどを明らかにした。これらの研究は、各言語を対照させることにより言語間の音声特徴の異同を明らかにした点で意義がある。 また、研究期間を通して、モンゴル諸語における /g/ や流音 /r/, /l/ の音声実現のバリエーションを記述し、その音声実現を説明し得る音韻表示について、素性 (feature) および要素 (element) の概念を用いて理論的な分析を行った。2022年度には学術論文 “Multifaceted Phonological Characteristics of /g/ in Mongolic Languages” を発表している。 2022年度には、モンゴル国においてフィールドワークを行い、モンゴル語の帯気性の対立および母音の無声化に関する新たなデータを収集した。このデータを活用し、今後も引き続き音声事実の観察、音韻理論に基づく分析、音韻表示と音声実現のマッピングにおける言語間の差異の検討を行う予定である。
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