本研究は、照応関係を持つことができる言語表現に着目し、その性質を調査することを目標としている。数ある照応表現の中でも、今年度は特に、先行研究ではあまり議論されてこなかった、数量表現の照応用法の性質を調査した。日本語を含む複数の言語における類似構文の性質をまとめ、具体的な分析としては、照応関係を持つ数量表現は、非顕在的な代名詞と構成素を成しており、照応表現としての性質は、この非顕在的な代名詞の性質によって導かれると主張した。また、この研究成果を学会で発表し、その内容を論文にまとめた。 研究期間全体を通して、本研究では、従来の束縛理論を見直すために、様々な種類の照応表現と、それに関連する言語表現を調査してきた。具体的には、指示的表現を含む「そんなに」の否定極性表現としての用法と束縛代名詞に関する性質、照応表現と同じように、言語的な先行詞を必要とする代用形の性質、複数の指示対象が存在する場合における交差現象、数量表現の照応用法について、それぞれ詳細な調査を行なった。否定極性表現と交差現象に関しては、意味論の立場から分析を行い、照応関係について理論的な分析を提案した。代用形と数量表現の照応用法については、統語論の立場から、照応関係を持つ表現の構造を明らかにした。これらのトピックは、従来の束縛理論の枠組みではあまり活発に議論されてこなかったが、多角的な観点から分析を行うことで、照応という言語現象の新しい側面を明らかにすることができた。
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