本研究の目的は、日本のアーカイブズ機関(文書館)で十分な量の映像資料が保存されなかった要因を明らかにすると共に、国立のアーカイブズ機関が大量の映像資料を受入れてきた米国の制度と比較することで、映像資料をアーカイブズ機関で保存するための効果的な管理プログラムの在り方を検討することにある。そのための基礎的作業として、両国の文書館制度の創立期を中心に、映像資料の移管実態と管理手順の成立過程について分析することを目指した。 最終年度である本年度も新型コロナウイルス感染症の流行や緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の影響下での研究遂行を余儀なくされた。特に年度の前半は国内外の移動が制限されていたことから、文献収集に関してはオンラインで入手できる資料が中心となった。その後、感染症が小康状態となった夏季に米国を訪問して、国立公文書館の映画・録音部門にて調査と資料収集を行った。この調査で入手した映像資料の検索手段にかかわる一次資料は、前年論文にまとめた映画の検索手段の作成過程についての研究を補完する上で非常に貴重な資料となった。 日本の行政映画の移管基準や管理手順の実態を把握するにあたり、1971年の国立公文書館開館に先立って開催された検討会議の会議資料を分析し、海外文書館制度に学んだ日本がどのように記録の「定義」を翻訳・受容し、移管基準を設定したのかという点を検討した。本調査を通じて、移管対象となる文書の範囲を検討する際、映像資料については十分な議論が尽くされなかった経緯を確認できた。調査の成果は論文1本にまとめた。 上記の海外調査を実施できたことにより、アーカイブズ機関が受入れた映像資料を効果的に管理する手段として、①映像資料の作成段階からの管理、②記録媒体の性質に合った適切な検索手段の作成、③映像資料とその関連文書の知的関連付けを通じたアクセス支援、以上三点が有効であることが明らかとなった。
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