研究課題/領域番号 |
21K20024
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
野田 農 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (20907092)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | エミール・ゾラ / フランス自然主義文学 / リアリズム / 地方都市 / 移動 / 交通 |
研究実績の概要 |
エミール・ゾラの『ルーゴン=マッカール叢書』の地方及び地方都市を舞台とする作品と『三都市叢書』を分析対象として、19世紀後半のフランス文学作品に 描かれた空間の表象と登場人物の移動を描いた記述について考察することを目的とした本研究の2年度目の実績として、前年度に引き続き、『三都市叢書』の第1巻目の作品である『ルルド』に関して、この小説の第1部及び第5部に描かれた主人公たちがパリと物語の中心的な舞台となる巡礼地ルルドとの往復の旅を描く場面に関して、風景や移動の観点から分析を試み、同じく鉄道を通じたパリと地方都市との間の移動を描く作品であり、『ルーゴン=マッカール叢書』の1巻をなす作品でもある『獣人』に描かれた鉄道の移動及び列車内の場面の描写との比較を行った。その成果を、研究論文「ゾラの『獣人』『ルルド』における鉄道の表象-風景・移動・知覚の観点から-」として、九州大学フランス語フランス文学研究会の雑誌「ステラ」第41号に発表した。 また『ルーゴン=マッカール叢書』の地方及び地方都市を舞台とする作品に関しては、初年度で扱った第1 巻目の作品『ルーゴン家の運命』(La Fortune des Rougon)に加えて、この作品の続編とも言える第4巻『プラッサンの征服』(La Conquete de Plassans)、第12巻『生きる喜び』(La Joie de vivre)、第13巻『ジェルミナル』(Germinal)、第15巻『大地』(La Terre)に関して、これらの作品の中で本研究テーマに関わる記述箇所を中心に分析を引き続き進めている。 最後にフランス本国のゾラ研究チーム主催のセミナーへオンラインで参加し、パリ近郊メダンの別荘の歴史や、ゾラの最晩年の作品に関する専門家の研究発表を随時聴講し、作家の生涯や作品のみならずフランスにおける近年の研究状況に関する見識を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究においては、初年度に行った『三都市叢書』の第1巻目の作品である『ルルド』に関してその成果を論文の形でまとめることができた。また、『ルーゴン=マッカール叢書』の地方及び地方を中心とする作品のうち、初年度から扱っている第1巻『ルーゴン家の運命』に加えて、『ジェルミナル』、『大地』、『生きる歓び』など複数の作品に関して分析を継続して行っている。初年度につづき、コロナ禍でフランスへの渡航が困難であったため、参照できる資料も限られていたが、最終年度の調査へ向けた基礎的な研究はある程度進めることができた。以上の点に鑑みて全体として概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度から引き続き、これまでの研究成果を、学術論文や翻訳の刊行という形で成果発表して行くことを目指す。具体的には初年度の『ルーゴン=マッカール叢書』の第1巻『ルーゴン家の運命』に加えて、『プラッサンの征服』、『ジェルミナル』、『大地』、『生きる歓び』に関する分析に関しては、大学の紀要論文での発表を現在目指している。また『三都市叢書』の第1巻『ルルド』に関しては、引き続き日本語翻訳を進めると同時に、19世紀の文学や美術におけるリアリズムに関する共著書の形で刊行することを目指しており、目下その原稿の執筆を進めている。また最終年度に当たる2023度中は、フランス国立図書館及びITEMのゾラ研究チームの研究施設での文献調査を実施し、各大学機関や研究機関でのセミナー等に参加を目的として、研究調査のためのフランス渡航の準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では初年度後半及び2年度目にフランス国立図書館およびITEMのゾラ研究チームでの資料調査やセミナーやシンポジウムへの参加のために、フランスへ渡航予定であったが、コロナ禍における海外渡航制限のためにそれが困難であったため、当初の初年度の使用額から支出額は大きく減少せざるを得なかった。またそれに伴い資料等の購入に関しても当初想定していたほどには購入の必要性が生じなかったため、次年度以降に繰り越さざるを得なかった。次年度以降においては、フランスへの渡航、国内外の学会やシンポジウムへの参加、論文発表や書籍の刊行など、既にいくつかの計画があり、それらの実現に向けて初年度及び2年度目の繰越金が相当額必要である。
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