研究課題/領域番号 |
21K20026
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
佐藤 園子 早稲田大学, 人間科学学術院, 助教 (80907139)
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研究期間 (年度) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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キーワード | ジュール・シュペルヴィエル / シルヴィア・バロン・シュペルヴィエル / フランス現代詩 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、20世紀フランス詩において多様化する土地の(移動を含む)経験が、いかに「詩的に住まう」ことの意味を重層化しているのか、また、詩の中で実践される「詩的に住まう」態度が言葉と取り結ぶ関係とはどのようなものか、という問いを核とし、ジュール・シュペルヴィエル研究に端を発する問題意識を、フランス現代詩におけるエコポエティック研究へと接続することで、広くフランス現代詩研究の分野に貢献することを目的とする。 今年度は、「研究実施計画」のうちの「土地と詩的空間の検討」に該当する部分に労力を割いた。具体的には、ジュール・シュペルヴィエルの詩学が、詩集『船着場』(1922)に代表される世界の多様性へと開かれる詩学から、詩集『引力』(1925)以降の内的空間の詩学へと変遷する過程を、土地(lieu)と空間(espace)という二つの観点から考察し、論文「1920年代におけるジュール・シュペルヴィエルの詩学の展開」として発表した。この論文では、ジュール・シュペルヴィエルと雑誌『ユーロープ』との関わりを中心に分析し、これまで見過ごされがちだったシュペルヴィエルのテクストの社会的背景を明らかにした上で、『船着場』におけるメトニミーの論理が『引力』におけるメタモルフォーズへと変遷する過程を論じた。 また、本研究課題の展開の一つとして設定している、「20世紀フランス詩を、現代のディアスポラ文学との関係において、フランス語そのもののグローバルな移動の問題として検討する」ための最初の試みとして、現代詩人シルヴィア・バロン・シュペルヴィエル(Silvia Baron Supervielle)の詩についての発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究課題の展開のうち「土地と詩的空間の検討」については、ある程度の進捗が得られたと考える。しかし、エコクリティシズム(環境批評)との接点を持つ、自然についての新しい感覚に基づく詩学研究の試みとしてのエコポエティック研究という観点から言えば、課題の中心的な問いとテクスト分析が融合する段階には到達していない。そのため、「やや遅れている」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
現在進めているエコポエティック研究の現状についての網羅的な把握を進めつつ、以下の二つの課題に取り組む。 第一に、既に着手しているシュペルヴィエルにおける動物表象の分析だけでなく、植物表象の分析も同列に扱うことで、より広くエコポエティックの文脈へと繋げていく。研究手法としては、植物学者フランシス・アレをはじめとする科学的な観察と詩の歩み寄りに着目していくことを考えている。この際、古典的ではあるがガストン・バシュラールによる動植物イメージの考察(ロートレアモン論など)は、本研究課題を遂行する上で重要な役割を果たすだろうと考えている。 第二に、研究実施計画を提出する段階では考えていなかったが、詩における土地や場所の経験と、抒情詩の中心的なテーマである記憶と忘却についての考察を深める。その際、シュペルヴィエルにおける土地の経験が色濃く打ち出されている散文詩『泉に飲む』の翻訳刊行を研究課題の副次的な成果の一つとして設定し、将来的な見通しとして、散文詩の研究において検討される時間性の問題を、韻文詩のテンポ(詩の時間性)の分析と結びつける形で成果を公表することを目標とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外出張ができず、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせて、2022年度には海外出張や資料調査などを行う。
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