本研究課題は、日本語の複合語を対象に、形態的主要部がどのようにアクセントを保持しているのか、また複合語の形態構造と韻律情報の関連性を探求することを目的としている。研究期間中には一連の知覚実験と産出実験を実施することとなった。最終年度に行われたオンライン産出実験において、複合語と単純語を比較した結果、両グループの平均モーラ持続長に有意な差が観察された。具体的には、複合語における平均モーラ持続長及び境界モーラの持続長が単純語に比べて長く、このことから形態構造が持続長という音声情報を通じて示されている可能性が高い。この発見は研究成果の情報発信の一環として国際学会や学会の予稿集などで発表した。また、もう一つの産出実験において、複合語の形態的主要部が左側にある語と右側にある語の音素長を比較したところ、左側主要部を持つ語では形態構造の境界にポーズが入りやすいことが判明し、形態構造と音声情報の対応を示す証拠の一つといえる。さらに、本研究はjsPsychを利用したオンライン実験手法を積極的に用い、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う研究環境の変化にも柔軟に対応した。予定されていた実験の一部は新型コロナの影響で遅れたが、オンライン実験を通じてデータ収集を再開することができた。このオンライン音声実験の技術的なサポートや注意点を研究者コミュニティと共有し、音声実験の新たな可能性を広げるために情報発信を続けている。
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