本研究の目的は、1940年代末から1950年代初頭までの中国東北地方における農家経営を検討することを通じて、同時期の中国農村経済の特徴と変容を解明するものである。以下では、2022年度の研究実績を史料整理・収集と成果発表、課題の3点に分けて説明する。 まず史料整理・収集についてである。本研究は、従来の研究でほとんど利用されなかった中国東北地方の地方新聞から地域社会を解明しようとするものである。既に中国国家図書館や各地の地方図書館において関連地方新聞の一部を収集してきたが、これらの新聞を利用するためには、新聞全体の状況や論調を把握する必要があり、2022年度は2021年度に引き続きその整理に時間を費やした。また、滋賀大学や京都大学など日本国内での史料収集も積極的に行った。 次に成果発表についてである。2022年度はこれまで数年かけて収集・整理してきた満洲引揚者が戦後満洲で書き残した日記を『崩壊と復興の時代――戦後満洲日本人日記集』(東方書店)として出版することができた。東北地方の農村社会に関する言及はないが、1945年以降の現地社会の動態や日本人が置かれていた状況をこれらの日記から窺うことができ、多角的な視点から「満洲国」崩壊後の現地社会や、中国国民党や中国共産党による地域社会の掌握を理解することにつながる。 最後に課題について述べる。当初は2022年度に中国でのフィールドワークを実施し、文献史料から十分に理解できない村落の実態について、直接現地に赴いて老幹部や農民を対象とした聞き取り調査を行う予定であった。しかし、新型コロナの影響で訪問が実現できなかった。今後、この2年間で整理した史料をもとにさらに分析を進め、将来的な現地調査につなげていきたい。
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